第4話 絶滅姫
この時、主城にある酒場の片隅で、秋人は幼馴染の雪乃と一緒に座っていた。
秋人自身は『神域』というゲームでは無名の地味プレイヤーだが、雪乃はその正反対、まさに大物だ!
「絶滅姫」という彼女の名は、プレイヤーたちの間で広く知られている。
秋人が選んだのは、人目につかない静かな酒場だったが、それでも雪乃にサインを求めるファンが時折やってくる。
まるで現実のアイドルみたいな扱いだ。
まあ、VRMMOの世界では、世界BOSSの初撃破を成し遂げたような超強力なプレイヤーが崇拝されるのは当然だ。
「Aki、最近リアルで忙しかったの?もう一週間くらいログインしてないからびっくりしたよ。このままゲームやめちゃうかと思ったし」
雪乃のキャラクターは、強気な女騎士だ。
現実では可愛い女子高生なだけに、そのギャップがまたいい感じだ。
「最近の『神域』のアップデート、どうも気に入らなくてさ。運営が生産系プレイヤーを全然大事にしてくれなくなってきてるんだよな」
秋人も認めざるを得なかった。
『神域』の最近のアップデートは戦闘系の要素ばかりが強化されていて、
生産系プレイヤーとして鍛冶や裁縫、エンチャントなどを極めていた秋人が必死で作った装備も、
雪乃が高難度ダンジョンで手に入れた装備には全く敵わない。
この圧倒的な格差のせいで、生産系プレイヤーの多くは《AFK(Away From Keyboard)》、つまりゲームを離れていった。
「まあ、しょうがないよね。運営も最近、プレイヤー間の競争に力を入れてるし、BOSSの初撃破とか、PVPとかさ」
雪乃も少し残念そうに言った。
彼女は純粋な戦闘系プレイヤー、いや、むしろ戦闘狂だ。
だから『神域』の改変にも、彼女はすぐに順応していた。
「そうか。じゃあ、Yuki、ちょっと時間ある?最近『選ばれし勇者』っていう新しいゲームを見つけたんだ。戦闘システムとか、全体的な感想を聞かせてほしいんだけど」
秋人は『勇者』の制作に関わっていることを誰にも明かすつもりはなかった。
余計な面倒を避けたいし、単にゲームのテストプレイヤーとして知り合いを異世界に招待するだけで十分だと思っていた。
「また新しいゲーム?」雪乃は、秋人に新しいゲームに誘われるのはこれが初めてではなかった。
しかし、彼女が返事をしようとしたとき、横から不満げな声が飛んできた。
「姫様にはそんな遊びに付き合ってる暇なんてないんだよ!あと3日で『神域』の新しい高難度ダンジョンが解禁されるんだから、世界初撃破の準備で忙しいんだ!」
秋人が振り返ると、同じ黒い甲冑を身にまとったプレイヤーが立っていた。
「ギルド:
雪乃が所属するギルドであり、「絶滅姫」という異名もこのギルドから広まったものだ。
『神域』の戦力ランキングでもトップ5に入るスーパー戦闘系ギルド。
雪乃はその中でも最強クラスの実力を持ち、ギルドのメンバーからは「姫様」として尊敬されていた。
「さる、黙れ!」
雪乃はギルドメンバーに向かって冷たく一喝した。
秋人と話している時とは全く違う、まるで殺意を帯びた冷酷な声だった。
「で、でも姫様!」
「言い訳は聞かない!私は数日間休むって決めたんだから、今すぐ消えろ!」
雪乃はギルドメンバーを追い払った後、再び秋人に視線を戻した。
彼女は軽く顎に手を当て、微笑みながら言った。
「じゃあ、Aki。今週末、一緒にその『勇者』ってゲームやってみようか?」
「えっ…う、うん」
秋人は雪乃の優しい笑顔を見て、少し胸が痛んだ。
彼女は秋人の幼馴染だが、実は中学卒業後、雪乃の家は別の街に引っ越してしまった。
秋人と雪乃はオンラインで一緒にVRMMOをプレイすることで関係を保っていたが、二人のVRMMOに対する楽しみ方は全く違っていた。
秋人は生産系が好きで、雪乃は
その違いが、少しずつ二人の距離を広げていた。
それでも、雪乃は秋人との関係を保とうとしてくれていた。今も、彼女は秋人の提案を受け入れて、時々新しいゲームにも付き合ってくれている。
だが、秋人にはわかっていた。雪乃は本当は「農業」とか、そういったゲームには全く興味がない。
彼女はただ、秋人に合わせて無理をしているだけだ。
現実では離れた街に住んでいて会うことができない。だから、ゲームを通して幼馴染としての絆を保とうとしているのだ。
秋人は、無理に嫌いなゲームを続けることで関係を維持するのは長く続かないと理解していた。
だが、秋人には確信があった。『勇者』は、きっと雪乃――いや、多くのVRMMOプレイヤーが夢中になって楽しめるゲームになるはずだ!
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