第2話 辛口占い師陽子 その二
辛口占い師陽子がその日2人目のお客様を迎えたとき、カードを手にしながら、心の中で少し笑みを浮かべていた。ドアが開き、入ってきたのは、まさに『自信満々』という言葉がぴったりの超美人。ブランドバッグを片手に、鮮やかな巻き髪を揺らしながら、堂々と歩いてくる。彼女の名前は悠里、年齢は40代前半だろうが、その完璧なメイクとスタイルはまだ20代といっても通用するほどだ。
「こんにちは、陽子先生って占いすごく当たるんですって?」と、悠里は表情も崩さずに言った。声に余裕が漂っているが、陽子にはすぐにわかった。こういうタイプは表面こそ自信たっぷりだが、内側では焦りや不安を抱えていることが多い。
「ええ、まあね。今日はどんなお悩み?」と、陽子はいつものように柔らかく聞き返した。
悠里は軽くため息をつき、バッグを無造作に置いて席に腰掛けた。「私ね、悠里っていうの。これまでずっと男にモテてきたの。美人だから当然よね。気に入った男はみんな振り向かせてきたわ。でも最近、なんか調子が悪くて……若い子に全部持っていかれてる気がしてね。私、どうしてなのかしら?」
陽子は悠里の話を聞きながら、カードをゆっくりと切り始めた。確かに悠里は美人で、自信もあるが、内心は焦っているのが見て取れる。年齢を重ねても自分の美貌に頼り続けてきた結果、突然その武器が効果を失い始めたとき、女性は驚きと戸惑いを隠せなくなる。
「悠里さん、あなたは確かにこれまでたくさんの男を手玉に取ってきたわね。でも、今は時代が変わったのかもしれないわよ。今まで通りにはいかないということかもね。」と、陽子はカードを一瞥しながら言った。
悠里は少し不満そうに顔をしかめた。「でも、私まだまだイケてるわ。なんとかしてまた男たちに追いかけさせたいのよ。昔みたいに、私がひと目惚れさせるくらいに!」
陽子は深く息を吐き、悠里の言葉に対する反応を考えていた。そして、ふっと微笑みながら彼女の手を見つめる。
「悠里さん、あなたは確かに美しいし、魅力的よ。でも、時々女としての魅力だけに頼りすぎてない?もっと内面の魅力を育てる時が来ているのかもしれないわ。今までの方法じゃ通用しないって、自分で感じているんじゃない?」
悠里は少し驚いた表情で陽子を見つめた。「内面の魅力なんて、そんなこと言っても男は見た目が全てよ。若い子たちに勝つためには、やっぱり美しさが大事なのよ!」
陽子はしばらく黙って悠里を見つめていた。そして、いつもの穏やかな声で、少し厳しくこう言った。
「悠里さん、あなたが追いかけてるのは見た目だけで女を選ぶ男ばかりよ。そんな男たちにいつまでもモテたいと思うの?今までのやり方で得たモテは、表面的なものよ。本当の魅力っていうのはね、もっと深いところから出てくるものなの。」
悠里は少し沈黙した後、軽く笑いを浮かべて言った。「それはわかってるつもりよ。でも、やっぱり私はモテたいの。特にね……最近、職場で見かけるイケメンが気になってるのよ。彼を振り向かせたいの!」
その瞬間、陽子は目を細め、悠里の目を真っ直ぐに見据えた。そして、少しピリッとした空気が流れた。
「悠里さん、いい加減に目を覚ましなさい。」陽子の声が一段と鋭くなった。「そんなイケメンは、あなたのところには来ませんよ!」
悠里は一瞬息を飲んだ。そして、言葉が詰まったまま陽子を見つめた。陽子はさらに言葉を続けた。
「あなたが今まで手玉に取ってきた男たちとは違うタイプの人を狙っているなら、もっと違う方法でアプローチしなさい。見た目だけじゃなくて、自分自身の価値を見つめ直して、本当の意味で魅力的な人間にならなきゃダメ。表面的なモテだけに頼る時代は終わったのよ。」
悠里はその厳しい言葉に一瞬圧倒され、そして深く息を吐いた。自分がこれまで考えてきたことが、一瞬にして崩れ去ったように感じた。
「わかったわ……先生。なんだか頭が冷えた気がするわ。もう一度、自分を見つめ直すわね。」と、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
陽子は柔らかく微笑んで、最後に一言だけ付け加えた。「男を手玉に取るのも楽しいけど、本当の勝者は、自分の心を手玉に取れる女よ。覚えておいてね。」
悠里はその言葉に少し頷き、立ち上がった。そして、陽子に軽くお礼を言って店を出て行った。その背中には、わずかながらも新しい決意が感じられた。
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