そんなイケメンはあなたのところにはやってきません❗️

@scissorjj

第1話 辛口占い師陽子

「そんなイケメンはあなたのところへはやって来ません」


辛口占い師陽子は、鋭い目つきで目の前の女性を見下ろした。占いの館の薄暗い部屋に、その言葉はあたかも冷たい刃物のように響き、女性の心を貫いた。30歳を少し超えた独身OL、村上彩子は、陽子の言葉に面食らいながらも、うつむいて苦笑いを浮かべた。


「ええ、でも……やっぱり、私にも素敵な出会いってあると思いたいんです」


彩子は少し頬を赤らめながら、手に握ったメモ帳をぎゅっと握りしめた。そこには、友人たちから聞いた「恋愛成就の方法」が箇条書きで並んでいる。パワースポット巡り、タロット占い、開運ブレスレット……全て試したが、思うような結果は出ていない。


「恋愛成就? それよりまず、現実を直視することね」


陽子は冷たく笑った。彼女はこの手の相談には慣れていた。目の前にいる彩子のような女性は、一見清楚で自己主張が強くないように見えるが、その内面は自己中心的で、理想の男性像だけがやたらと高い。こういったタイプの女性は、理想を求めるあまり、現実の良縁を逃してしまうことが多い。


「あなた、どういう男性が理想なのか、話してみなさい」


陽子は興味深そうに、手元のタロットカードをシャッフルしながら尋ねた。彩子は少し考え込んだが、すぐに顔を輝かせた。


「背が高くて、イケメンで、お金持ちで……優しくて、もちろん浮気なんかしない人です。あと、私の仕事を理解して応援してくれる人がいいです。何かに情熱を持っていて、毎日が充実してる感じの人!」


言葉を紡ぎながら、彩子の目は輝いていた。夢見るような表情で、理想の王子様が白馬に乗って現れる様子を思い描いているのだろう。しかし、陽子はため息をつき、手にしたカードをテーブルに並べた。


「その理想、どこかおかしいとは思わないの?」


彩子は眉をひそめた。「どういう意味ですか?」


「あなたが今言ったことを聞いている限り、そんな男がいたとして、彼があなたを選ぶ理由がどこにあるの?」


彩子は一瞬言葉に詰まった。確かに自分自身のことはほとんど語っていない。話していたのは、ただ理想の男性像だけだった。


「自分を知ること。それが恋愛成就の第一歩よ。あなたが本当に何を求めていて、何を提供できるかを理解しない限り、どんなに理想を語っても意味がない」


陽子はさらに続けた。「欲張りすぎているのよ、彩子さん。今のあなたには、何もかもを求めて手に入れようとする、そんな焦りが見えるわ。でもね、恋愛は取引じゃないの。お互いが補い合うものであって、全てを完璧に持っている相手なんていない。少し現実的にならないと、一生その理想に振り回されるわよ」


「でも……どうしても諦めたくないんです」と彩子は言い返した。「自分だって、これまで頑張ってきたし、妥協したくないんです」


「妥協じゃないわ。成長よ。恋愛というのは、自分自身を見つめ直し、成長させるものでもあるの。あなたが本当に愛されるべき人になるためには、まず自分の欠点を受け入れなさい。そして、その上で他人を受け入れる覚悟を持つの」


彩子はしばらく黙っていた。頭の中で何かを噛み締めているようだったが、やがて深いため息をついた。


「わかりました……少し、考えます。でも、もし私が変わっても、誰も来なかったら?」


陽子はカードを指で軽く叩いた。「それでもいいのよ。大切なのは、あなたが自分を大事にして生きること。そうすれば、自然と良い出会いが訪れるわ。人は自分が変わった時、初めて本当の出会いを経験するものなの」


陽子は最後に1枚のカードを引いた。それは「星」のカードだった。


「これは希望を示すカードよ。あなたが本当に変わりたいと思うなら、チャンスは必ずやってくる。けれど、それは決して、今のあなたが望むような“白馬の王子様”ではないかもしれない。でも、その方が、きっと幸せになれるわ」


彩子は立ち上がり、少しだけ微笑んだ。陽子の言葉が、心のどこかで響いたのかもしれない。


「ありがとうございます。もう少し、自分を見つめ直してみます」


彩子は静かに部屋を出て行った。その背中を見送りながら、陽子は静かに呟いた。


「そんなイケメンは、あなたのところには来ない。でも、もっと素敵な誰かが必ず現れるわ」

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