昔、私は……

折原 一

昔、私は……

昔、私は心を読むことができた。

保育園のころ、じゃんけんで負けることはなかった。私は特別な力を持っていると思い、とても嬉しかった。

だが、嬉しいことだけではなかった。大人たちの考えていることも理解できたのだ。

「この程度で泣くなよめんどくさい」「子供は楽そうでいいよな」「騒がないでくれ。こっちは疲れてるんだ」「なんでこの程度もできないの」「お金がないのにわがまま言うなよ」「どうして言うことを聞いてくれないの」「もう疲れた。子供さえいなければ」

笑顔の裏に隠された、そんな心を見てしまい、私は怯えた。そしてひどく聞き分けのいい、俗にいう『いい子』になって、必死に嫌がられないように生きてきた。

それから何十年か経ち、大人になった私は心が読めなくなった。周りの雑念がなくなり、他人というしがらみから解放され、とてもいい気分だった。

しかし私の心には、あの頃の大人たちの言葉が呪いの様に根強く残っていた。

いつからか私は、あの頃の大人と同じようなことを考えるようになった。


今、私は一児の母だ。私の愛する娘は、私を見て何を思うのだろうか。それを考えると、私は上手く笑えなかった。

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昔、私は…… 折原 一 @tnkkn

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