第8話 17歳・男女40人・学生・爆死
「ちょっと待って何でアメンボなんですかアアアーッ!?」
いつもの相談室でまた1人アメンボ転生をキメたフィオラはパイプ椅子に深く腰掛け、一息ついた。
「はぁ〜〜〜、来る日も来る日もヒキニートかブラック勤め……下界、大丈夫かしら……」
大丈夫ではないのだが、こと異世界転生選別課にはそういうタイプの魂が流れ着きやすい傾向にある。瑕疵なく天寿を全うすれば現世転生の方へ流れるからだ。
ここは魂の穢れた死者が流れ着く最終選別場。無垢なる魂に出会える確率は極めて低く、何かしらの瑕疵を持つ魂を相手取るのが日常と化している。
「なんて、私に関係ない事をぼやいていても仕方ないか……次の方、どうぞ」
『失礼します』
(ん?ちょっと待って?今、複数人の声が聞こえなかった?)
6畳ほどしかない相談室にぞろぞろと魂達が入室してくる。格好から見て学生だろうか、皆制服を着用している。
フィオラは10人から先は数えていない。というかそんなに入れないから廊下にズラッと並んでいるのが見える。
「あ、あの……私達、まとめてここに通されたのですが……」
相談室内が魂でギッチギチになり人の流れが止まったころ、フィオラの眼前10cmまで接近した眼鏡でおさげの大人しそうな女子が口を開いた。
「だ、団体様ですね、珍しい……ところで貴女方は何故お亡くなられに?」
「それが、テロリストの仕掛けた爆弾で教室もろとも吹き飛ばされまして……」
「現世、本当に大丈夫!?」
大丈夫ではない。
「それで、私達はこれからどうなるのでしょうか……」
「え、ええ……ここは異世界転生選別課。非業の死を遂げた貴女方は異世界に転生していただくことになります」
魂達は顔を突き合わせ、がやがやと話し合う。お前ら全員異世界転生します、なんて言われたら無理もないだろう。
「それで、貴女方の全員に聴き取りをしてどのような世界に、どのような能力を持って、どのような出自で生まれ変わるのかを判断するのですが……困りましたね。業務時間内どころか、今日中に終わるかどうか……」
「能力貰えるんですか!?イヤッホウ!例えばどんな感じなんですか!?」
おさげ眼鏡の斜め後方に位置する調子の良さそうな魂が手を挙げて質問してきた。
「魂の強度によりますが、それ相応の能力をお与えします。悪ければ能力以前にアメンボとかになってもらいます」
さらにざわつく相談室内。至近距離で若者達が好き勝手話す現状に、フィオラは辟易していた。
「アメンボとかふざけんなよ!俺たちは爆破に巻き込まれた被害者だぜ!」
「そうよ!元の世界に帰してよ!」
そしていかにもスクールカーストの高そうな魂達が非難する。こいつらは間違いなくアメンボ送りだな、とフィオラは内心で査定した。
「残念ながら、貴女方は現世転生から漏れてしまったようです。ですので何かしらの瑕疵があるものと……」
(あれ?待てよ……教室を爆破されるなんて非業の死を遂げたはずなのに、ここにいる全員が異世界転生送り……?妙だな……)
さらに非難の声が上がるも、深く思考するフィオラの耳には届いていない。つまり彼らは何らかの瑕疵を負っているということになる。それが何なのかは聴き取りを行うしかないのだが……
「何よフィオラ、面白そうな事になっているじゃない」
「な、ナロウ様!?近い近い近い!」
魂達を押し除け、フィオラの隣にナロウが転移してきた。あまりにもスペースがないため、頬と頬がぶつかるぐらいの距離だ。
「困ってそうだから来ちゃった。ここじゃ狭いだろうから私の部屋で一斉面談しちゃわない?こういうの、私は慣れっこだからさ」
「そ、そういうわけで、皆様は私の誘導に従って下さい!別室へ、早く別室へ向かわせていただきます!」
先程までの騒ぎはどこへやら、明らかに神としての格が違う存在に圧倒された魂達は大人しく従うのであった。
数分後、ナロウの部屋。彼らは室内に浮かぶシャボン玉群に目を奪われていた。
「ひい、ふう、みい……男子20人、女子20人。計40人ってとこか。しかしクラス転生なんて珍しいね。普通は転移なのに」
「何でも、テロリストに教室を爆破されたようで」
「現世終わってない?」
転生と転移で明確に違うのは、死んでいるか生きているかの違いである。死んでいる場合は生まれ直すしかない転生に該当し、生きたまま異世界へ転移する者とは少し違う。
そういう転移者も上級神の管轄であり、緊急で魂の総量を調整するために死後役所を通さず直接送られる事が多い。
彼女達はそもそも死後役所の所属ではなく、外注を受けて業務を執り行っている。部屋が死後役所内にあるのはそちらの方が手続きがスムーズに執り行われるからだ。
「現世の終わりぶりは後で下界監視課の人達に聞くとして、時間がないので一斉面接と致します。まずお聞きしたいのは、貴女方が何故テロリストによって爆殺されたのかです」
「知らねーよ、先公が自習を宣告して浮かれている間に爆殺されたんだから」
「ふうん……何でテロリストって分かったの?」
「あんな事する奴、テロリスト以外にいるかっての」
スクールカースト高そうな男子の言い分は暴論だが、実際まとめて爆死しているのでその線は濃い。
しかし、フィオラが知りたいのは誰が教室を爆破したのかではない。何故爆破したのかだ。
彼らには全員瑕疵がある。そうでなければ数人はこんなところに送られず、真っ当な転生をしているはずなのだ。
そう、全員というのがキモなのだ。例えば一部の生徒が校舎の隅で煙草を吸っていたとか、クラスの誰かをいじめていたとか、盗んだバイクで走り出していたとかではない。もしクラス全員がそれらをやっていたら下界本当に終わってると認定されて祖神が下界を消しかねない。
「例えば……そう、テロリストとやらが教室を爆破したとしましょう。その場合、隣の教室も無事では済まないのでは?」
「私達のクラスは一番端ですから。それに、隣のクラスは移動授業で無人だったはずです」
「よく知ってんね、佐藤委員長」
「隣のクラスに友達がいるので。登校中にぼやいているのを聞いていたんですよ」
「遠いもんな特別教室……」
今の会話で分かったのはリーダー格っぽいおさげ眼鏡の子が佐藤という名称であること、教師が自習を宣告して教室にいなかったこと、他に爆破事件の被害者はいないこと。
これで分かったのは、少なくともテロリストとやらの仕業ではない事だ。そもそもテロリストが何故学校に現れるのか。学校を襲撃する必要があれば別だし、仮にそうだとしてもクラス1つ爆破するぐらいならもっと被害が出るか一切出さない方法を選ぶだろう。
仮定だが、彼ら40人は殺されるべくして殺された。そして実行犯は学校内部にいる。隣のクラスに被害が出ず、急な自習の予定すら知っているとすれば……
「……あの、その先生のこと、どう思ってます?」
「え?そりゃ鈍臭くて話はつまらなくて、かと言って授業中にダベっていても何も文句言わねえんだよな」
「正直に言いますと、成績のためにはならない授業をする人でしたね。授業を聴くぐらいなら塾の宿題をこなしていた方が良かったとしか」
「委員長、言うじゃん」
「だから私も鈴木君の提案に乗ったんですよ。全員で授業をボイコットしようって……あっ」
フィオラとナロウがものすごい形相で40人を睨みつけていた。生前はたかが高校生であった彼らが神二人の睨みに耐えられるはずもなく、全員腰を抜かしてしまった。
「てめえら、そういう事を先に言わんか!」
「えーっと、どこかに勇者召喚と銘打った生贄の儀式やってる所ないかしら……」
「何ですかその物騒な世界は!?」
「安心しなさいな。そういうのってクラスで1人だけハブられたのとかが復讐鬼になって生き残るから。フィオラ、せっかくだからこいつらで試してみない?能力の付与」
「ちょっ、ナロウ様!?何で私まで巻き込むんですか!?」
今までチート能力を付与するのは上級神しかやっておらずタイトル詐欺も甚だしかった今作ではあるが、それには歴とした理由がある。
チート能力の付与とは、神の魂を一部預けて神力を使えるようにしてあるだけなのだ。つまり、神自身にそれ相応の魂強度が無ければ付与することすら出来ない。
フィオラは下級神である。それも、魂の穢れ切った。せいぜい新しい服に取り替える事しか出来ない彼女が、それも40人一気にチート能力を付与したら自身が消滅しかねない。
ナロウは、自分に死ねと仰っているとフィオラは理解した。何がいけなかったのだろう?ナロウに40人もの一斉転生を投げたからか?
しかし、この天界に於いて上司の命令は絶対。ならば、腹を括るしかない。
「……私もまだ死にたくはありませんからね。貴女方に付与するのはこないだゲンファン様に貰った本に書かれたスキル1つだけですよ。じゃ、ページを適当に選んでっと」
「そ、そんな適当なんですか!?転生特典選ぶのって!?」
「本来はしっかり面接して希望の能力と可能な範囲を調整するのが筋なんだけど……廃棄世界に送られなかっただけマシと思いなさい悪ガキども。あんた達に相応しい世界は見繕っといたから、そこで魂の肥やしになりなさい」
生徒達はさらなる威圧を受けて理解した。怒らせてはいけないものを怒らせてしまったのだと。
「はい、あんたはこれ!そっちのあんたはこれ!そんでもってあんたはこれ!能力が決まった順にそこのシャボン玉に飛び込みなさい!」
「そ、そんな!指から無害な光線を出せるだけの能力とか言われてもアアアーッ!」
ルールブックに書かれたページを指差しては小世界に押し出し、という動作を40回は行ったフィオラは極度の疲労により倒れてしまった。
数日後、ナロウの部屋。
『これから君達には殺し合いをしてもらいます』
「……というわけで生徒達は異世界殺人ゲームの世界に送られたわけだけど、これで満足かしら?」
「ありがとうございます神様。これで悔いはなくなりました」
小世界を見ているのはこの部屋の主であるナロウと、1人の女性の魂。彼らの教室を爆発した張本人であり、担任教師であった。
彼女が受けた仕打ちは集団ボイコットなどという可愛げのあるものだけではなかった。担当クラスの全員からもっと悍ましい嫌がらせを受けていたのだ。
爆破事件の後、彼女は自害した。死因は彼らを殺害した手段と同じ、爆死だ。
「それで、貴女が受けた仕打ちについては部下から聞いたけど、それでも40人の殺害と自害はやりすぎ。ましてや元教え子の苦しむ姿を最期に見たかっただなんて……廃棄世界行きの罪からは逃れられないからね」
「いいんです。私は彼らが死後も苦しむ姿を同じ地獄で見るつもりでしたから。最も、地獄なんてないんですねこの世界には」
「あんなの、死後の世界を知らない人間が勝手に想像しただけだからねえ。さ、あんたの行く世界はここを出て左手に向かって6個目のドアよ」
「重ねて、ありがとうございました」
魂が退出していくのを見届けたナロウは、しばらくして自分も退出していく。電子タバコのカードリッジを弄りながら向かう先は喫煙所だ。
喫煙所に到達すると、そこでタバコ休憩を取っていた下級神達が驚愕の後に退出していく。ナロウ本人としてはもっと部下達と交流したいと思っているのだが、それは神としての格が許さない。
「お疲れ様です、ナロウ様」
しかし、そんな中でもビビらずに(内心ものすごくビビっているんだけど)煙草を吸い続けている下級神がいた。ナロウ達のお気に入りであり、40人への能力付与に耐えたフィオラだ。
「改めて、多重能力付与の件お疲れ様。どう?久々に休養が取れたんじゃない?」
「休養も何も、次の日から普通に出勤でしたからね?早退分しか休めてないですよ……」
「えっ」
ナロウは内心驚いた。そして自身の直感が正しかったと確信した。何故なら、フィオラごときの魂強度であんな無茶をやったら7日ぐらいは昏睡するはずなのだ。
それが、一晩寝たぐらいで回復するなどありえない。もっと言えば消滅の危険すらあっただろう。ナロウの実験のためとはいえ、彼女から連絡があったことに安堵していた。
(やはり……彼女は……)
「ごめんなさい、私が悪かったわ」
ナロウはフィオラに向かって頭を下げる。上級神が下級神にこのような態度を取るなど、あってはならないことだ。
「ちょっ!?何してんですかナロウ様!頭を、頼むから頭を上げてください!喫煙所の外にいる子達に誤解されてしまいます!」
「あ、あらそう?ならやめるけど……」
「と、とにかく!私は無事ですから気にしないでください!そ、それじゃ私は休憩そろそろ終わるんで!」
フィオラは脱兎の如く逃げ出してしまった。その様子を、ナロウは再度頭を下げつつ見据えていた。
当然その様子を見ていた他の下級神達にフィオラは詰められるのであったが、ナロウとしてはそんなことはどうでも良かった。
見つけたのだ。長年、彼女達が追い求めてきたものを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます