第7話 27歳・男性・配信業・餓死

「ダンジョン転生がしたい!」


 そう言い放った小太りの男を前にしたフィオラは内心で頭を抱えた。


「申し訳ありません。私共の不勉強でございまして……ダンジョン転生とは?」


「知らないのかい?現代社会にダンジョンが生えてくるやつ!そこで配信者として一山当てたいんだよ!」


 どうやら目の前のお客様は生前動画配信者Youtuberとして活動していたらしい。だが見た目もトーク力も企画力も劣っていたためか芽が出ず二次元のガワを被る方Vtuberへと鞍替えしたとのことだ。

 これで見た目の方はカバー出来るし企業所属であるため企画力もそっちに任せておけば良かったが、肝心のトーク力がアレだったので稼ぎは雀の涙だったため食うのに困って餓死してしまったらしい。

 先日ゲンファンと話していたことが現実になった格好だが、その教え通りフィオラは何も考えないようにした。


「現代にダンジョン……つまり現代異能に分類されますかね?」


「よく分かんないけど多分そう!とにかくダンジョン配信したいから、よろしく!」


「少々お待ちください。担当の者と相談しますので」


 現代異能であればゲンファン。今度こそ間違いではないだろうと思い、ゲンファンへと電話をかける。


「やあフィオラ、今度はどんな少年が来たんだい?」


「少年から離れてください。今回は現代にダンジョンが生えた世界に転生したい成人男性のご紹介です」


「少年じゃなきゃ却下だね。というのは冗談として……惜しいね、その類型は私の管轄外なんだ」


 またもハズレを引いてしまい、フィオラは落ち込んでしまった。この話はゲンファンとも交流の深いユニティに回され、後でパチンコやってる時に説教を喰らうだろうと考えた。


「確かに現代ダンジョンモノは広義としては現代異能に分類される。しかし、最近そういうのが増えてきてね。期待の新人上級神に全部回したのさ」


「そ、そこまでのジャンルなのですか!?」


「KADOKAWAという企業が運営しているカクヨムという小説投稿サイトを覗いてみるといいよ。現代ダンジョンモノがフィーバー起こしているからね。ともかく、その上級神……迷宮神ルインには話を通しておくよ。じゃあね」


「ありがとうございます!それでは、失礼致します!」


 フィオラなんか最近このパターンばかりだな、と思ってきた。上級神に確認を取ったら別の上級神を紹介されるパターンが。

 このままだとあれよあれよと上級神とのコネが増えていく気がする。実力が足りていないのにコネばかり増えていくと恐縮してしまう。


「神様も大変だね……企業みたい」


「一応、公務員ですからね……では、行きましょうか。転生先の選別と能力の打ち合わせに」




「失礼致します」


 いつものシャボン玉部屋へ入ったところで上級神の姿を確認する。今度はデスクに座っているタイプのようで安心した。

 そこには天使ショタが鎮座しているのかと誤認してしまった。ヘッドホンをつけて自分の近くに小世界シャボンを引き寄せてじっくりと見ている青髪の少年がいた。彼は入室してきたフィオラ達に気づいていないようだった。


「なんか、動画のリスナーっぽい神様ッスね」


「見ているのは小世界ですけどね。こういう神は珍しくないですよ。部署が違うと下界観察が仕事で趣味の方とかも結構います」


「俺たちの生活って神様にとってはコンテンツなのね……」


 業務中に遊んでいると勘違いされやすいが、世界を見るのは神としての業務である。むしろ監視を怠っている方が問題だろう。

 フィオラはふとユニティの事を思い出した。あの神は職権を濫用して生のゲーム実況を観ているようなものだ。一応あんなんでも仕事はやっているのだ。


「……誰だい?推しのダンジョン攻略視聴の邪魔をする奴は」


 そんなこんなで話をしていたら上級神の眼光がフィオラとお客様を見据える。フィオラは恐怖のあまり失禁してしまいそうになってしまった。

 お客様は漏らした。


「し、失礼致しました!ゲンファン様からの紹介で来ました、フィオラと申します!」


「ああ、ゲンファン様の……ビビらせてごめんよ。失礼でもなんでもないから大丈夫。粗相はしたようだけどね」


「換えのパンツとかありません……?」


「そんなものないので浄化しときますね」


 フィオラがちょっとだけ神力を使うと、お客様のズボンは濡れていないものに即交換された。今まで散々フィオラの事をボロクソ言ったが、魂が汚れまくっていてもこのぐらいなら片手間で出来る。下級とはいえ、神なのだ。


「さて、ボクの世界に転生したいとのことだけど……何か希望はある?」


「それはもう、ダンジョン配信です!」


 ルインは眉根を寄せた。フィオラは再度恐怖し、お客様は再度失禁した。


「膀胱空になっちゃう……」


「はいはい、浄化しときますね」


「確かに転生有無に限らずダンジョン配信者はこの現代ダンジョン世界群には多数存在する。これはボクの質問が悪かったのだけれど……どういうダンジョンがお好みなんだい?」


 さらにルインの目の色が変わる。フィオラはこの状態をまずいと感じた。

 これは、ゲームの話になったユニティや異能の話になったゲンファンと同種の、言わばオタク特有の早口になる時の目と一緒なのだ。


「い、いや、あの……特にビジョンはなくて……」


「ダンジョンは平均何層ぐらいがいい?難易度は?数は?ダンジョンが生えてから何年後がいい?外国にダンジョンは生えている?それによって外交関係が変わることは?ダンジョンの発生理由は?常に構造が変わるタイプがいい?ゲーム的な管理を望む?スタンピードの有無は?」


 実際に早口になってしまった。あまりにも捲し立てられたお客様がたじろいでしまったではないか。

 迷宮神ルインは、その名のごとく迷宮が大好きなのだ。かつてはナロウの配下として各世界の各ダンジョンのレベルデザインを担当していた中級神であった。

 最近現代ダンジョンモノが起ってからはゲンファンの部署にも顔を出し、あらゆる現代ダンジョンの管理と作成を担当してきた。ダンジョンオタク故の熱量を以て仕事をこなしまくったおかげで異例のスピードで上級神へと昇格し、現代ダンジョン世界全体を任されるまでになったのだ。

 彼にとって重要なのは配信をしたいなどという動機ではなく、ダンジョンの事だけだ。どんなダンジョンがいいか、それが彼の転生者へ求めるただ一つなのだ。


「そ、そこまでは考えてませんでした……!」


「チッ」


 そんな事を企画力がズタボロで餓死してしまったお客様が考えているはずもなく、ルインは機嫌を損ねてしまった。


「あ、あの……ルイン様。私も現代ダンジョンというものが不勉強でして……後学のためにご指導頂ければと……」


「……ふむ。ナロウ様やゲンファン様から聞いていただけの下級神ではないようだ。殊勝な心掛けに免じて教えてやろう。そこの配信者崩れもよく聞いておくように」


「は、配信者崩れ……」


 ショックを受けているお客様を尻目に、フィオラは正座して聴く姿勢を整える。


(この馬鹿野郎……!上級神を怒らせてどうすんだ!尻拭いをするこっちの身にもなれっての!)


 内心は穏やかではなかった。最近、気の良い上級神とばかり遭遇してきたから忘れがちだが、その気になれば下級神ごとき眼光だけで殺せるのが上級神という存在だ。


「現代ダンジョンとは知っての通り下界にゲームみたいなダンジョンが生えてきた世界を舞台とする。フィオラ、この世界でダンジョンに潜らなければいけない理由を考えてみろ」


「下界にダンジョンが……ダンジョン……つまり、それってモンスターが生息しているということで……非常に危険ではありませんか!?」


「そうだ。そんな事が起こったら今までの生活は送れない。事実、ダンジョンから溢れたモンスターで人類の生存域が激減した作品もあるな。モンスターが大量発生スタンピードして国が滅びたとかもある。これらの駆除のため、ダンジョン攻略の必要性が出るな」


「自衛隊に任せとけばいいのに、モンスターにはダンジョン内で拾った装備やダンジョンで鍛えたスキルじゃないと倒せないみたいな理由づけがされている作品もありますね」


「少しは勉強しているじゃないか木端配信者。軍隊や自衛隊が率先してダンジョンを攻略するなんて作品もあるがな」


「木端……」


 またもやショックを受けている元配信者。第一印象が最悪だったためにルインからの当たりが少し強い。


「ではその木端配信者に質問だ。ただでさえ危険なダンジョンに、何故配信者が行く?」


「そりゃ撮れ高ッスよ!現代でダンジョン攻略なんて珍しいもの配信したらガッポガッポじゃないですか!」


「考えが浅いぞ馬鹿者。ダンジョンが当たり前にある世界でその認識のままでは同接ゼロのままもう一度餓死するだけだ。例えば、実力があるなら攻略先駆者としてダンジョン攻略法を教授したり、スーパープレイを見せつけてリスナーを引かせる事も出来よう。顔が良ければ名も売れよう。最も、ピンチに陥ってもそれを目当てに観る一部の歪んだ性癖の持ち主を悦ばせる事も出来ようが、それは勧められんな……命あっての物種だからな。ピンチに陥った美少女配信者を助けて一躍有名になるルートもあるがな」


 結局ダンジョンは危険であり、それ相応の実力が無ければ成功しないしすぐに命を落とす。であれば下界で迷惑配信者でもやっていた方が命のリスクはまだ低い。炎上するのが電子か物理がの違いだけだ。


「ダンジョン配信のキモは異世界モノ特有の成り上がりと非常に相性が良い点だ。同接数、総視聴数、スパチャの額……そういった分かりやすいリソースが明確になる点だ」


「神様もスパチャするんですね……」


「ボクが与えるのは神力だがな。ところで配信者以外がダンジョンに潜る理由は他に考えられるか?フィオラ」


「わざわざ危険を顧みずに現代人がダンジョンへ挑む土壌を形成するには……やはり報酬ですかね?企業勤めをするよりダンジョンへ潜った方が稼げるとか……」


「素晴らしい!大抵の作品ではそうなるよう仕向けられている!下層へ行くたびに報酬が豪華になったりするのはダンジョンモノの醍醐味と言えよう!ダンジョンから資源が得られたり、モンスターのドロップ品から賄える魔力が新エネルギーとして使えるなどという理由づけは目にタコが出来るほど観てきた!」


 フィオラの正答に、ルインの化けの皮が剥がれた。ダンジョンオタクとしての顔がついに剥き出しになった。


「ああ、早くダンジョンを紹介したい!というわけで電子日銭稼ぎよ。早速ボクの神力を分け与えるからフィオラにダンジョン攻略するところを見せてやってくれ。最大1000層ある良い感じのダンジョンがある世界を見繕ったから」


「えっ、ちょっと急になんスか!?やめて!引っ張らないで!ああ〜〜〜!!!」


 その体格からは信じられない剛力を以て、お客様はシャボン玉の一つに一本背負いで放り込まれた。


「お、お客様ーーーーーッ!?」


「さて、彼奴の末路を見届けたら今日の講義はこれぐらいにしておこう。16歳からダンジョン攻略資格を得られる世界に飛ばしたから16年飛ばしてっと」


 ルインがシャボン玉の外にあるシークバーを先に進めると、暗い洞窟の中で配信用ドローンに向かって何か言っている革装備のイケメンが映っていた。


「お客様、えらく体型が変わりましたね。シュッとしてる」


「配信者なのだから見た目は整えさせてもらった。生のダンジョン攻略はVでは務まらんからな」


「バーチャルのガワ着せるならゲーム配信でいいですからね……あっゴブリンに絡まれたあっ刺されて死んだ」


 瞬殺であった。ゴブリンと舐めてかかった配信者は、ゴブリンへと無策に突撃し後ろに潜んでいた別のゴブリンから奇襲を受けて心臓を貫かれてしまった。

 ショッキングな映像を前に、コメント欄は大盛り上がり……というわけでもなかった。そもそも新人配信者として知名度も同接もゼロな故に誰も見ていないからだ。


「馬鹿者が……堅実に鍛えれば深層へ至れるステータス上昇補正を付与してやったというのに、その程度で死ぬとは何事だ。やはりダンジョンが生えている世界生まれの者とは危機感が違うな……」


「つまり転生向きじゃないですよねこの世界群」


「それが分かっただけでも講義を行った甲斐があったというものだ。では、次もダンジョン世界転生希望者がいたら紹介してくれ。講義の続きをしてやろう」


「は、はは……お手柔らかに……」


 話が長くなるためルインとはあまり関わりたくないフィオラであったが、その想いとは裏腹にダンジョン世界転生希望者が続々と現れることとなる。

 流行っているのは本当なんだな……と思いつつ、フィオラは現代ダンジョンへの知見を深めていく羽目になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る