第9話 36歳・男性・会社員・心臓発作
「ははあ……正社員としてちゃんと働いてて、特に仕事もきつくなくて、警察のお世話になったのは道交法違反ぐらいで、不摂生が祟ったせいで心臓発作を起こして死亡……貴方、なんでこんなところに来たんですか?」
「し、知らないです……思い当たるのは数件ぐらいしか……あまり神様の前で言いたくはないんですが……」
今回のお客様は小太りの男性であった。こういう体格の魂は引きこもりニートである率が非常に高いのだが、珍しいことにちゃんと働いている人なのであった。
本人の口ぶりから何らかの瑕疵があるのは確定なのだが、そこについては深く突っ込まない。罪状をこんな感じで言い淀むのは性犯罪の可能性が高いからだ。聞いたところで不快になるだけだ。
「それで、どのような転生をお望みでしょうか?」
「【今や女児に人気の同人ゲーム】の世界で女の子達を調教して売り払いたいです」
その眼差しは本気だった。というか性犯罪者確定だこれ。
「……ゲームって事はユニティ様ですね。少々お待ち下さい」
もはやこういう客にも慣れたフィオラは速攻で上級神へ電話をかける。異世界転生相談員としてすっかり慣れてしまった。嫌な方向で。
「……はい、【ゲーム名】の、調教……はい、分かりました。すぐに伺います。えっと、アレの話はやめろみたいなこと言われましたが大丈夫そうです」
「その神様、分かっている側ですね……」
何が分かっているのか、ユニティの性癖に触れたくはないから理解したくないフィオラであった。
「ハッハッハ!幻想入りとはまた古典的な転生を選ぶ魂が来たもんだ!しかも18禁と来た!動画サイトじゃ即BANだよ!」
部屋についたらユニティのテンションがいつもより高くて引いた。
「だからですよ!誰もやっていない、あの転生をするんです!」
「良いぞ人の子よ!存分に願いを叶えたまえ!というか君ぐらいの魂ならある程度のチートは施せるとも!そこのフィオラが」
「また私ですか!?」
「ナロウから聞いたよ。ルルブの適当な能力とはいえ40人に付与出来たそうじゃないか。1人かつあまり穢れていない魂なら大丈夫さ!」
(な、ナロウ様めぇ〜〜〜!)
この分だと他の上級神にもあのことは伝わっているだろう。確かに消滅してはいないし、エターナルのように痩せ細ってはいないが、意識を失ったのは事実だ。
出来れば二度とやりたくはないのだが、上司の命令だ。やるしかない。
「それで、どのような能力をお望みでしょうか?」
「んー、あの転生をするに当たっては……まず最低でも10人を監禁出来る家が欲しいですね」
監禁という単語が出てきて頭を抱えるフィオラだったが、問題はそこではない。
「そんな程度でよろしいのですか?」
要求にしてはあまりにもチャチすぎる。確かに10人も収容出来る座敷牢を有した家など、もはや屋敷や施設に近い。だが、それでもチート能力と言うには不十分だろう。
「まだあるんです。ある程度の開業資金と奴隷商とのコネ。むしろ最後のが最も重要かもですけど……」
「い、いや……私が言いたいのはそういうことではなく……例えば超人的な身体能力とかはいらないんですか?」
「ただの調教師にそんな能力要りません!」
「そうだそうだ!解釈違いだ!」
何故かユニティまで乗ってきて、フィオラは少しイラッとした。
「でもその奴隷商ってあの世界の主要な女の子、金さえ払えば誰でも連れて来れるよね?」
「そっちの方がチートじゃないですか!」
「あの人が作中最強だと思います。それでも、俺自身は一から成長したいと思っているので、自分がそういう能力を持つのは御免です」
異世界転生をしようとする者は、大抵分不相応の能力を求めて破滅する傾向にある。チート能力を得て最強になったかと思いきや能力の応用性で負けたり、それよりも強い存在に敗れたり、力加減を間違えて世界を滅ぼしたりする。
だが、目の前のお客様はあまりにも堅実であった。既に転生した後のビジョンを見据えており、それでいて驕りはない。性犯罪さえなければ通常転生コース向けの人格であった。
「あとさあ、あのゲームって恐ろしい奴らばっかりだよね?そこの所の対策ってしなくていいの?」
「確かに……では、あらゆる人妖を遠ざける結界も貰っておきましょうか」
「ようやくチート能力っぽいのが提案されましたね……いいでしょう、私ごときの力で上手く行くかは分かりませんが、えーい!」
フィオラは男から要求された四つの特典を一斉に付与した。そのうち三つはものすごく簡単な願いだったので、今回は倒れることなく付与出来た。
「ハァハァ……?何ともない……?ともかく、貴方はそれなりに良い家に生まれ、奴隷商人ともコネが出来るよう運命を付与しました。女神としてはいただけない願いですが、幸運をお祈りします」
「やはり……いや、なんでもない。既に世界の用意は出来ている。楽しませてくれよ」
「ありがとうございます!俺、立派な調教師になって100万円稼いで本命の奴隷にエンゲージリング買います……!」
そうして男は旅立って行った。最後の最後まで目標が具体的過ぎていっそ清々しいまであった。
「……100万で指輪買えるんですかね?」
「あの人が行った世界、貨幣価値が明治中期で止まってるからアホみたいに高い方だよ。そんじゃ、またパチ屋で鑑賞会しよっか」
「もうちょっと静かな所がいいんですけど……」
今日は神力を使ってしまったのでここで小世界を見るだけの方が良かったが、ユニティは何らかのゲームをやっていないと落ち着かない性質なので、仕方なく受け入れるのであった。
転生から15年。塩屋の息子として生まれ、何不自由なく暮らして来たが、ようやく転機が来た。
親父が怪異によって殺されたのだ。家業は廃業、従業員には店を売った金を渡し放逐、俺に残されたのは広さだけならある実家と、わずか1000円。
さて、ここまで状況が揃えば奴隷商が接触してくる頃だろう。生前の親父はそういう後ろ暗い人種との付き合いもあった、ということにしてくれたのだろう。
「チィーッス」
「あ、ああ……?」
そこに現れたのは頭が鶏を模した黄色の被り物をし、この世界では明らかに異質なパーカーという衣類を纏っている……不審者であった。
「なんじゃい、お得意様が死んだって言うから香典出しに来たのに。人の顔見て不審な目を向けないでくれよ」
「だって、鶏じゃん!」
「そうだが!?」
ダメだ、こいつのペースに付き合っていたらキリがない。大人しく話を進めた方がいい。この不審な鳥を家に入れてしまおう。……こいつ、不審な割には丁寧に死者を弔うなあ。
「やい少年。この家、ものすごく不審だね。人を捕らえようとする……そんな雰囲気があるんだよね」
な、なんだこの鳥!?鋭い!流石、この地の人妖全てを捕獲出来るという奴隷商!こんな見た目だったのはビックリしたけど!
「親父の趣味でさあ、たまに奴隷を囲って慰み者にしていたんだ。だから座敷牢をしっかり整備してたんだよね。俺も少し手伝った経験がある」
「……そう。まあいいや、それだったら君さあ。奴隷調教とか、どう?それだけ人を監禁するスペースがあるんなら、仕上げた奴隷をウチで買い取るからさあ」
「そういうのが欲しいお得意さんがいるもんなんですね」
「あんたの親父さんみたいなのがね」
よし、なんとかスタートラインには立てたようだ。不審な鳥が奴隷候補の目録を出したからだ。それは前世でも見知った名と人相であった。
この世界は所謂チート能力を誰しもが持っている世界だ。そうでありながら絶妙なバランスで平和な社会が成り立っているが。
そのバランスを維持する巫女や魔法使い。単独で異変を起こせる妖怪や神霊、隔絶した価値観を持つ月人や別世界の神ですらこの目録に名が上がっている。そんな彼女達を性奴隷に仕上げるのが俺が望んだ転生世界のゲームだ。
「やはり初手は安く扱いやすい奴隷を仕上げて当面の資金を確保するところからだな……安定の宵闇の妖怪、春告精、河童のいずれかだな……」
「おお、お客さんお目が高い。それぐらいならあんたの資金でも足りるでしょ」
何故、俺の懐具合を把握している?いや、考えたところで無駄だ。何せこの奴隷商はあらゆる超越存在を捕らえて寄越してくる事が出来る実力者だ。余程力のある妖怪に違いないし、それなら人間一人の資産を把握するなど朝飯前だろう。
「じゃあ、まずは宵闇の妖怪で行こう。定番だもんな、幻想入りの」
「何が定番なのかは分からないけど、金さえくれるなら私は構わんよ。今後とも、不審鳥商会をよろしくね」
「……屋号、そんなんでいいんですか?」
「人買いなんだからまともじゃない屋号しててもいいじゃん。私の事は不審鳥と呼んでくれて構わないから」
「ええ……?」
この世界最強の奴隷商はどこかブッ飛んでいる。それは予想の範疇だったが、実態はその斜め上をカッ飛んでいた。
数分後。
「はい、捕まえて来たよ」
「早いなオイ!?」
「ウチは即日納品がウリだからねえ。能力は封じてあるから、好きにしな」
不審鳥は黒い服を着た金髪の幼子を座敷牢にブチ込んだ。俺が金を渡すと、金ピカの神輿に乗って飛んでいった。なんなんだあの不審者……
まあいい。これから俺の調教ライフが始まるのだ。まずは牢の中に入れられた幼子を見てみよう。
……ウワッ、物凄く睨んでる。そりゃそうだ。いきなり不審な鳥に捕らえられて気がついたらこんなところに入れられたのだ。当たり前の反応と言えよう。
「……ちょっと待って?これ、調教するのはいいけど、本当に大丈夫かこれ?」
あの調教ゲームの主人公は即身体を触りに行っていたが、これは無理なのでは?まずは関係性の構築から始めるべきなのでは?
いいや、そんな事よりもまずは調教だ。夢にまでみたあのキャラ達を調教出来るのだ。こんなに嬉しい事はない。
意を決して、俺は牢の扉を開いた。前世で女性の身体を触った経験は殆どないが、今世で親父の手伝いをしていたからなんとか慣れて……
「お前は、食べてもいい人類だ」
「え?」
扉を開けた瞬間、俺の右手は食いちぎられていた。
フィオラとユニティはパチンコを打ちながら転生者の末路を眺めていた。年端もいかぬ幼子に見えるソレは、もはや動かぬ骸と化した人間だったものを一心不乱に貪っている。
「あちゃー、やっぱこうなったか……9割ぐらいがこの子に遭遇する妄想をするんだけど、普通に考えたら勝てるわけないんだよね。たかが人間ごときが妖怪になんか」
「だから身体強化ぐらいは施した方が良かったのに……欲がないからこうなるのです」
既に骨だけとなった彼は謙虚過ぎたが故にこうなった。異世界転生に於いてはチート能力を盛り過ぎる方が成功しやすい。
愚かな行動を起こせば死にやすいのは確かだが、そういう思い切りも時には大事なのだ。結局、運がなければどうしようもないし、運を呼び込むには大胆な行動が必要となる。
作品における異世界転生者は作者という神に恩寵を与えられている。すぐにのたれ死んだら話が進まないし、都合が良い展開が訪れなければ話はつまらなくなる。主人公補正というやつだ。
「でも、能力付与は上手くいっていたじゃないか。その魂の総量で。不思議だね」
「これ、ゲンファン様やルイン様にも伝わってますよね……エターナル様の所は能力を付与する必要がないからともかく……」
「ナロウが嬉々として話に来たから、多分そうじゃないかな。また祖神様の領域で呑もうって連絡貰ってるし。フィオラ含めて」
「ま、またあの上級神飲み会に……ですか……」
前回と違って、今回はさらに人が増えるだろう。ゲンファンはともかく、ルインが来るかは分からないが、どちらにせよ胃が痛くなるのは確定だ。
「日程はおいおい連絡するから後でまた……ん?さっきの奴隷商?やっぱあの少女とは知り合いだったか……」
「物凄い量の金渡してますけど、困惑してますね。というかお金の事をわかってなさそうな……」
『ピィーッ、覗き見たあいい御身分だな』
「「!?」」
不審な鳥の被り物は、明らかにこちらを見て話しかけてきた。金をもらった少女もこっちを見るが、首を傾げるだけであった。
「おや、僕達の事を知覚出来るとは余程の力を持っているようだね。君は一体何者だい?」
『あ、これ被ってるから分かんないのか。よいしょっと』
奴隷商が被り物を外した瞬間、ユニティは後ずさった。そこには薄い緑の髪をした、鶏の被り物からは想像出来ないほどの美少女がいた。
「ユニティ様、この人は一体……?」
「大変失礼致しました妹様!観察対象は既に死亡したので、すぐに観察を取り止めます!」
「……妹様!?」
そのあだ名はこの天界に於いて知らない者はいない。祖神の妹。フィオラのような下級神ではお目通りも叶わない、天界トップクラスの人物だ。ならばいつものユニティらしかぬ態度にも得心がいく。
『まあ気にしなくていいよ。私の古巣に手を出されてちょっとイライラしてるだけだから』
「それは大丈夫ということではありません!すぐに切らせていただきます!」
ユニティは小世界への窓を閉じると、パチンコ台にもたれかかった。いつも通りフィーバーしていたが、弾を打つことなくずっと項垂れていた。
「ちょ、ちょっと……!もったいないですよユニティ様!」
「今はパチンコなんてどうでもいいさ……それよりもフィオラ、次回の飲み会は目的が変わった。妹様への対策を講じよう」
「いや、ユニティ様がしょっ引かれるだけですし、特に話し合うような事は……愚痴なら聞けますけど……」
「マズいんだよ、妹様に目をつけられるって事は僕達の業務に支障が出るって事なんだ。いいかい、フィオラ」
ユニティらしかぬ真剣な表情でフィオラに向き直る。それが異常事態だと察したフィオラはハンドルから手を離してユニティの方を向く。
「妹様は、異世界転生者殺しなんだ」
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