三十四話 神殺しは迷宮の中で 其の伍

 迷宮ダンジョンラビュリントス第五階層


 バサラと吟千代ぎんちよ迷宮ダンジョンに入って二日目。


 顔無し骸の兵隊達がバサラと吟千代ぎんちよへと襲いかかるも彼らを止めることは出来ず、毘羯羅びから涅槃静寂ニルヴァーナの錆にされた。


「カラカラカラ! 心地よい! この感じ! いつぶりか! あの時、死に損なった戦ぶり! カラカラカラ! あゝ、首ぞ! 首! 断っても! 断っても! 減らぬ! 減らぬ! カラカラカラ!」


 吟千代ぎんちよは口を回しながらも手を止める素振りは一切無く、辺り一面にいた兵士達を容赦なく斬り裂く。一方、バサラは逆に戦闘中は喋ることなく、黙々と目の前に現れる兵士達を破壊していた。


(吟千代ぎんちよの技、抜刀って言ってたけど、馘無侍くびなし流、あれだけを奥義として纏めた流派。全ての技が首を断つためだけに作られている。あの細い武器、刀? だっけかな。あれの性質を極限まで理解した上で作られた、ある意味到着点みたいな剣技だ)


 そんなことをバサラは考えていると第五階層も終盤、時間は分からずとも進むのみであり、彼らは第六階層へと踏み込んだ。


 迷宮ダンジョンラビュリントス第六階層


 突然、階段を降りた先には壁に囲われた広い部屋一つとなっており、これまでの構造とは全く別の決闘場の様相をしている。


(何だ、この氣? ここまで来た人間はいたけど殆ど死んでるって感じ。と言うよりもこの階層だけ広い。後、あの真ん中に座ってるのも一体?)


 バサラは部屋の真ん中に見たことのない武装をした者を確認するもののそれよりも早く吟千代ぎんちよは駆けた。


 彼女だけがその部屋に正座している死を漂わせる氣を纏う存在の正体を知っておる。具足も、武具も、甲冑も自身がいた土地のモノであり、同郷の強者に思いを馳せずにはいられない。


「その首、頂き申す! 馘無侍くびなし流、 辺津鏡へつかがみ!」


 抜刀した刀は甲冑に届く寸前、吟千代ぎんちよは同郷の強者が動いたと同時に攻撃を防御に転じた。


 自身の攻撃という選択を変える程の大きく動く氣。吟千代ぎんちよ自身はゆっくりと見えるもののバサラからしたら一瞬の出来事であった。


 そして、その判断がなければ、吟千代ぎんちよ自身の首が飛んでいた。


 その判断があっても、彼女は軽々と壁へと吹き飛ばされた。


 大太刀。

 あまりにも太く大きく大雑把でありながらも何十にも重ねられた鉄塊を軽々と振るい、立ち上がる。


「その刀、着物、同郷、日の本、主は武士か? 平安武士か?」


 正座から立ち上がる武士は全身を甲冑に覆い、素顔は分からない。ただ、人という形をしていながらその大きさは逸脱しており、2メートルを超えている。


「デッカ」


 バサラの呟きを聞くと次の標的は彼とした瞬間、武士は距離を詰めてきた。


 ドスドスと音を立て、あまり早くは無いがバサラ目掛けて大太刀を振るう。横振りの一撃を背中を逸らし、躱すもバサラが次のモーションに移る前に、再び太刀が振るわれた。


 次は縦での一撃。

 それをバサラは逸らした状態から地面に手を着け、一回転して避けると武士の体へと一太刀入れるために自分から間合いを詰める。


 だが、それは先ほどの吟千代ぎんちよ同様、バサラもまた防御をの構えを取った。


 振るっていた大太刀がいつの間にか、手元に戻っており、既に次なる一手を打つための準備を整えられていた故に。


 次の瞬間、防御を取りながらも大太刀のから放たれた一撃は防御それすらも無視し、バサラを簡単に吹き飛ばす。


 二人が壁に吹き飛ばされると武士は彼らがまだ立つのを知っているが待っているのは面倒なのか大きな声を上げた。


「立て、つわものども。主らが息しとるのも知ってる。我、名亡右象左象ななしうぞうさぞう。ここを通りたからば我を、この死に損ないを超えていけ」

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