三十二話 神殺しは迷宮の中で 其の参

 刀を再び握り締め、今にでも襲い掛かろうとする吟千代ぎんちよに対して、バサラは両手を上げ、戦う意志がないことを示した。


「どうしてだ! バサラ殿! その氣は偽物か! 否! 否! 否! 目を瞑っても分かる。拙者が人と認識出来る! ならば、お主は強者である! 死合いを拒むなどとは何と意気地なし! 侍の恥ぞ!」


「待って待って、僕も君も今会ったばっかりだし。僕もさっきまで岩石に追われたり、さっきの土人形ゴーレムに襲われたりで大変だったんだ。一旦、落ち着こう、ね?」


「ふむむむ、なら、そうか、そうしよう。改めて、自己紹介と行こう。拙者、馘無侍吟千代くびなしぎんちよ。日の本からこの地に転移? して来た侍だ」


 吟千代ぎんちよは自慢気に喋るとそれらを聞いてバサラは彼女が何者かを分析していた。


(全部聞いた事ないな、火の元? うーん、この地にそんな場所は無いしなー。それにさむらいってのも初めて。加えてって言ってたよね。これ僕とおんなじ技術なの? 僕、これ自分のオリジナルだと思ってたんだけど)


 バサラはそんなことを考えていると吟千代ぎんちよがいつの間にか、顔を近付けており、それに気づくと「うわあ!」と声を上げた。


「何やら考え事であるか!? もしかして拙者と死合う? 死合っちゃう?!」


「いやいや、しないよ!? ちょっと考え事してただけで。ねえ、吟千代ぎんちよ。あ、いや、ごめんね、なんて呼べばいいかな?」


吟千代ぎんちよで良いぞ! 拙者もバサラ殿と呼ばせてもらっているからな!」


 そう言い切ると彼女のお腹からグーと音が鳴り、部屋中に響き渡った。


「カラカラカラ! 腹が減った! 拠点から任務と言われここに来たがその間、飯も食えておらぬ! カラカラカラ!」


「あはは、吟千代ぎんちよは面白いね。そうだ! これから僕、この部屋で一旦休んで迷宮ダンジョン探索するから一緒にご飯でもどうだい?」


 バサラのご飯という言葉に吟千代ぎんちよは目を輝かせると無い尻尾が見えるが如く、ウキウキと体を揺すりながら彼の問いに答えた。


「飯! 飯をくれるのか?! いや、拙者、武士なり。飯と聞いて飛びついてはならぬ。ならぬが、今日は良しとしよう! バサラ殿! ご一緒させて頂きたい!」


***


 枝に火を着けるとそこに持って来ていた鍋に様々なきのこと野菜を入れ、飯盒と共に熱を通す。


「兜みたいな使い方を出来るのだな、この鉄は」


 料理を作るバサラの横で飯盒を見て、感心すると吟千代ぎんちよは楽しそうに眺めていた。


「ほら、出来たよ、こうやってお皿に乗っけて、ご飯はこっちね」


 バサラは煮込み終わった鍋の中身をお皿に取り出し、吟千代ぎんちよに渡すと彼女は嬉しそうに手を合わせた。


「かたじけない」


 そう言うときのこと野菜を一緒に口の中に入れると次の瞬間、全身を一度びくりとさせ、続けて徐々にビクビクと体を震わせる。


「美味い!!!!!!!!!!!!!! 美味すぎる!!!!!!!!!!! まともな食にありつけたのはいつぶりか! そして、米! 米ぞ! 米だ! 奴らパンとか言う謎の食べ物ばっか食いおる! 不味くはないが腹には溜まらぬし、力も入らぬ! ありがたや、ありがたや! バサラ殿はやはり、日の本から来たのでは無いのか?!」


「あはは、そこがどこは分からないけど僕はここの土地出身だよ。それとさっきからちょくちょく出てくる奴らってのは一体誰のことなんだい?」


「んあ? 奴らか? ふむ、拙者の同業者、であり、同僚であり、首を断つための強者達。何と申してたか、確か、廃棄孔アクタールとか何とか。拙者と同じ、日の本以外の場所から集っているらしいぞ! 名前も覚えてないが、あの男。首を断とうと死合ったが肋骨三本折られた負けた! カラカラカラ! 飯が美味いと話も進むな!」

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