二十七話 剣聖の憂鬱 其の肆
「喰らえ、
ジークフリートの一言で自分の体から流れていた血が右手に握られていた
そして、血を吸収した
バサラとの距離は殆ど無い。それを良しとし、ジークフリートは得物を振るった途端、その刃から白い斬撃が放たれた。
血を吸収し、傷を癒す再生と血の操作を行える能力。
吸収した血を斬撃へと換える破壊の能力。
バサラを襲うは破壊の能力であり、振るわれた赤い斬撃は彼の肉体と技術を持ってしても耐えることの出来ない。
0距離での攻撃を受け、バサラはなんとか
久々に感じる感覚、足が宙を舞い、物理法則に則りながら吹き飛ばされ、受け身のみを取ることしか出来ない。
「御師様!!!!」
ジータの声が遠くから聞こえるものの立つことも出来ず、朦朧とする意識の最中、バサラはかつて自分が争い、殺し続けた存在達との戦いの感覚を思い出していた。
圧倒的な力による蹂躙、理不尽と言い切れる不条理を前に、只々がむしゃらに喰らいつき、噛み千切って来た。
闘争に向けた狂気。
バサラはほんの少しばかり、その感覚を取り戻すと立ち上がる。
ジークフリートとの距離はおよそ100メートル、その距離を詰めるため脚に力を籠めた。
ドンと言う音共にバサラが森の中から一瞬にしてジータと撃ち合っていた間に彼は現れた。
「おっさぁん! さっきの受けて生きてるんか!」
嬉々とするジークフリートとは違い、ジータはこれまでに感じたことないバサラの雰囲気にゾクリとさせられる。
(御師様? いつもとは全然違う、この雰囲気は何?)
そんなことを考えているジータの横でジークフリートは
斬撃を纏わすことで放つ事を封ずる代わりに切れ味を引き上げる。ジークフリートが持つ細やかな技術により、刃と斬撃との間の薄さは殆どない。
斬撃を圧縮し、纏った
先ほどと同様、いや、それ以上の攻撃に対して、片腕で
「いいね! 最高だ!」
ジークフリートのボルテージは更に盛り上がる。だが、それは彼女だけではなく、かつての闘争への狂気を得たバサラもまた同じく跳ね上がっていた。
先ほどは打ち合うことすら出来なかった筈なのに、バサラは振るう剣を止めることなく、一歩も引かず、剣撃の嵐が形成される。
ジータは彼らの戦いに割って入ろうとするほど無粋な真似はすべきではないと考え、諦観を決めた。
それと同時にバサラが自分達が知らない闘争心剥き出しの姿を初めて見せてくれたと言うことにゾクリとした感覚はゾアリと盛る興奮へと変わっていた。
本気を超えた彼を見れ、
そんな中、ジークフリートに初めて緊張が走る。力は互角、技術も互角。ならば、何であれば彼らの撃ち合いに差をつけるのか? それは速度であった。
バサラは無意識のうちに自身の
右腕で振るっていた得物を左腕の逆手で持ち返し、切り返す。ジークフリートの攻撃の手段を消すと同時に自分の攻撃の手札は増やし、彼女の万全を徐々に崩していく。
(こいつ?! 俺の剣の振るうタイミングを消して来る! さっきの真っ直ぐな戦闘スタイルとは違って完全に別もん! 闘争に特化した、いや、しすぎてやがる!)
ジークフリートの攻撃に出来た隙、ほんの些細だが、一瞬だけ出来た氣の乱れ。彼女が防御するよりも速く、その獲物を斬り裂こうとすることだけに集中したバサラの剣が隙を目掛けて振り下ろされた。
寸前、バサラの鼻から血が垂れた。
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