二十五話 剣聖の憂鬱 其の弍

 辺りは見開きが良くなっており、誰も近付かないことを確信したバサラは自身の構えを少し変えると同時に仕掛けた。


 踏み込む瞬間に足へ全身の力を込め、一気に姿を消すとシンクに対して見せた技術を少女に披露し、彼女の背後に立った。


 ガラ空きであり、無防備、そんな体であってもバサラは容赦なく、得物を振るうも少女もまた、その一撃を見向きもせずに大剣で弾いた。直感で背後を取られたことを確信していた少女はすぐさま弾くと同時に後ろを向き、大剣を振り回す。


 バサラはその一撃を受けると少しばかり彼女から距離を取り、自身の息を整えながらその少女の強さを分析した。


 小さな体に漲る氣と有り余る様な膂力。

 鍛えて至れる境地はとうの昔に超えており、かつて自身が以前相対した機兵ですら感じなかった、神そのものに高い存在、そう感じた。


(人間、なのか? 今のもジータ達なら反応できる。でも、その後だ。僕を吹き飛ばしてもう既に戦闘態勢に入ってる)


 そんなことを考えている隙に離された距離を一気に詰められ、大剣が振るわれるもバサラはすぐに切り返し、互いにそれらを気にすることなく剣と大剣をぶつけ合い、火花を散らす。


 バサラはこのまま続くのであれば、自身の技を更に見せなければならないと覚悟し、剣を構え直そうとした瞬間、突如、自身の背後にそれは現れた。


 その場の二人の戦闘に向ける熱を一瞬にして惹きつけるほどの練られた氣と凄まじい殺気。


 それらを携え、握る得物に自身の運命を同調するために叫んだ。


「我、運命は狩人、獲物を屠る矢であり、それを番う弓。共鳴器・無窮壱尽バアルよ。我が運命の導に従い解き放て。その真なる姿を」


 そして、その声でバサラは誰かを知り、自身が置かれていた現状を把握すると冷や汗をかく。


 右手で握られていた剣は獲物を穿つことに特化した弓へと変わり、握られていなかったはずの矢はいつのまにかもう片方の手に握られていた。


 共鳴器・無窮壱尽バアル、その本質は貫穿、凡ゆるモノを穿ち、貫く物。故に、その矢、一矢一矢が死を孕むモノであり、ジータのみが持ち得る最凶の一撃。


 それらを一切の躊躇いなく、ジータは赤髪の少女に向けて放った。殺意の塊を前に、少女は笑顔を溢し、自身の握る大剣を振り回すと最も簡単に全て撃ち落とす。


 そして、嬉しそうに声を上げた。


「オイオイオイ! こんなとこに何の様だぁ! ジータ!!!!」


 ジータは自身の名を呼ばれ不機嫌そうにその少女を睨み付けるとその問いに答えた。


「そちらこそ何用ですか? 剣聖ジークフリート。今年はまだ戻って来ないと仰っていたはずですよ」


「ダハハ! そうだったな! 急用が出来て戻ってきただけだ! すぐに出るさ! だが、俺に矢を向けたな。それ即ち、戦いの合図! 食べ頃とは言えんがやろうか!」


 ジークフリートと呼ばれた赤髪の少女はここに至るまでバサラが魅せた未知なる武とジータが向けた殺意の込められた矢により、ボルテージが最高潮となっていた。


 この喜びを彼らに打つけずにはいられない、そう思うと自身の運命を握る得物へと同調つながざる得なかった。


「我、運命は壊滅! 求めるは終焉、目覚めるは破壊者! 共鳴器・邪竜失墜混沌大剣バルムンク! 我が運命の導に従い解き放て! その真なる姿を!」


 黒い大剣に白が入り、混ざるとその手には先ほどの大剣ではなく、バザラが握っている涅槃静寂ニルヴァーナと姿形が似たモノが手に握られていた。


 両刃には白と黒が混ざり合った美しい刃紋を描いており、ジークフリートはそれをジータとバサラに向けると嬉しそうに口を開いた。


「おっさん! ジータ! 第二ラウンドってとこだ! 張り切ってけ!」

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