二十四話 剣聖の憂鬱 其の壱
「ごちそうさま! 片付けは流石にして行くから、お皿はどこに持って行けばいいかな?」
バサラの気遣いに相変わらずお人好しな彼のことを見て、シンクは普段よりも穏やかなに微笑むと声を上げた。
「気にしないでくれ。今日の決闘はここまでが報酬だと思って欲しい。先生の手を煩わせる様な量でも無いしな」
「いや、でも、」
「もう夜も遅いだろ。ジータも一応、女だ。安全に家まで運んでやってくれ」
「一応と言う言葉以外は貴方らしくない発言ですが、お言葉に甘えましょう、御師様。明日も新しい任務が入ることですから」
そう言うとジータに連れられバサラはシンクがいた研究所を後にした。
そして、帰宅後、すぐにジータはお風呂に入り、バサラは部屋に篭った。
久々に会ったシンクのことを考え、自身の弟子達が立派になっていることに思いを馳せながら、微睡む。
体を洗うのは明日にし、バサラは目を瞑った。
***
明朝、朝日が登ったほんの少しの光を浴び、バサラは目を覚ました。水を浴びると昨日着た服を自分で洗濯する。
一人で暮らしていたが故の手際の良さにより、ほんの数分で全てを済ました。そして、ジータの屋敷の近くにあった森の中に入り、胡座をかくと瞑想を始めた。
目を閉じた途端、周囲の自然と自身を一体化させると数分して、バサラの周囲には鳥や、動物達が集まっていた。
(この感じ三日ぶりだ。連戦に連戦だったから思ったよりも自分の感覚が研ぎ澄まされてる。特に、ジータとシンク、そして、あのアリスって女の子と一緒にいた機械。あのまま続けてたらどうなってたかな)
そんなことを考えながら、目を瞑っていると突然、森の中からドンと言う大きな音が聞こえて来るとバサラは目を開いた。
周囲にいた動物達は音に驚き、姿を消すとバサラは立ち上がり、近くに置いていた
(ジータが来たのかな?)
バサラは音の鳴る方へと向かうとその一箇所に大きな穴が出来ており、一体何が起きたのかと思い、それの中を覗き込んだ。
覗き込んだ穴の先に何かがいた事を
姿が見えない、ただ、見えなくても感じ取れるほどの理不尽且つ悍ましい
それは昨日よく似たモノを見たが故の危機感。そんな物がジータの屋敷の近くに落ちて来たという事実に対して、バサラは戦闘態勢に入った。
「いてて、ここどこだぁー!」
声がするとともにそれは空を向くと自分に対して向けられていた殺意に気づいた。
そして、それと同時に自分が置かれている状況も理解し、穴から空に向けて自身の持つ、足で跳ねた。穴からの距離は凡そ3メートル、しかし、その距離はそれには無かったかの様に姿を現すと殺意を向けるバサラに目を向け、同時に、彼に目掛けて一瞬にして距離を詰める。
そして、自身が握る大剣を振るうと自分に向けた殺意を切らす為、また、自分という存在に殺意を向けた罰を与えるべく、その一撃は必殺と言えるものを放った。
凡夫であれば、その一撃を受けたと同時に肉体が残るか分からない程のモノであったが、バサラと彼の握る得物は違う。
しっかりとその太刀同士がぶつかり合い、火花を散らした。
一人は銀髪の初老の男、もう一人は赤髪の少女。
陽の光に照らされ互いの顔が明らかになると少女の方が声を上げた。
「んだぁ?! おっさん! やるなぁ!」
「そっちこそ、こんなとこに何のようかな」
「質問を質問で返す、か? この俺にだぞ?」
喋りながらも撃ち合い続けると一撃一撃の余波により、辺りの木々が音を立て、折れていく。
ボサボサの赤髪を一本に纏め上げた軽装の少女が握る大剣は真っ黒な色をしており、それらを軽々しく振るうもバサラも同様に
一進一退の攻防の中、バサラも少女も研ぎ澄まされる。自分が本気で打つかれる、互いに名も知れない存在により。
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