十九話 とある四護聖の分析 其の弐

 ジータに連れられ、バサラは王都の外れにある建物に来ていた。


「えっと、ジータさん? ここは?」


「説明が遅れました、ここはミレニア王国騎士団開発局、その研究所になります」


 しっかりとした壁に覆われたその建物は四角形をしており、その初めて見るものにバサラは少しばかり興味が湧いていた。


「ここには、」


「説明ご苦労、ジータ。後は、俺がやろう」


 ジータの説明を途切らせ、四角形の建物のドアを開き、その声の主人は姿を現した。


「先生久しいな、元気にしてたか?」


 ジータよりも背丈は低く、紫の髪で後ろを四つの三つ編みを作り、揺らす男が姿を現した。


「あら、自分から出てくるなんて珍しいこともあるのねシンク」


「説明が切らされてご立腹、尚且つ、俺に会いたくなくてイライラ、そう邪険にするなよ、ジータ。俺たちは四護聖だろう? それに、お前の大好きな先生の前だぞ」


「御師様、今すぐ許可をこいつ叩き切ります」


「こらこら、やめなさい二人とも」


 ジータとシンクが睨み合い、一触即発の中をバサラは止めようと入り込む。そして、久々に会ったシンクに喋りかけた。


「久しぶりだね、シンク、元気にしてたかい?」


「ああ、先生、もちろん元気にしてたよ。先生に寝床を提供出来なくて残念だが、何かあればすぐに俺の下へ来てくれ」


「私が! 御師様に! そんな、苦労! かけさせません!」


 シンクは予想通りの反応をするジータを置いといて、バサラに目を向けた。


「その手に持ってる物、それが目的だろ? まぁ、とりあえず、中に入ろう。募る話もあるだろうし、珈琲くらいは出そう」


***


「ふむ、森で出会った人工物と少女。それの残骸、か。先生、やはりあなたは面白いモノを俺に持ってきてくれるな」


 淹れたての珈琲を飲みながらシンクはバサラが持ってきた四つの腕を嬉しそうに観察する。


「それでシンク、これは一体何なんだい?」


「一先ず、訂正しておきたい箇所がある。これは人工物ではあるが、それを人工物と言うのはやめてくれ。これは機械と呼ばれるモノだ」


「キ、カイ?」


 バサラは聞き慣れない単語に首を傾げるとシンクは少し笑顔を見せ、続けて喋り出した。


「外力に抵抗できる物体を組み合わせ、動力によって一定の運動を起こし、その結果、設計通りの働きをするように人間が作り出した装置、それが機械だ。まぁ、こいつは機械と言うよりも更に発展した何かだがな」


「なる、ほど? おじさんにはさっぱりだ。やっぱり、頭が良いね、シンクは」


「当たり前だろ、なんせ、俺はあなたの弟子だからな。そこらの有象無象と一緒にされてくれちゃあ、訳もない」


 そう言うと機械の腕を見て、動かし、とある装置を持ってきて取り付けるとそれが何であるかをマジマジと分析し始める。


(質感的に、共鳴器か。何となくだが、今の科学じゃ考えられない技術と、何だ? 計測器の数字? 壊れてる? いや、うん? アダマンタイトの係数どうなっているんだ? 100? 100だと? 何だ、これ? 今の技術ではせいぜい30が限界。それを越して100%アダマンタイトで出来ている、だと? はは、なるほど、これがアイツの言ってたヤツか)


 純度100のアダマンタイトで出来ている共鳴器。その事実をシンクは知っていたかの様に妙に納得した表情で眺めていた。


 かつて純度100のアダマンタイト製の武器を作ろうとした者がいた。ただでさえ、高価なアダマンタイトを存分に使い、最高の武器を作ろうと息巻いていた鍛治士。


 結論から言えば彼と、その彼の周囲に居た人間、物、全てが消失した。


 アダマンタイトを溶かし、型に流すとその武器を力一杯打った。瞬間、その武器は光を上げると同時に、周辺半径30メートルの中に居た存在を跡形もなく消し飛ばした。


 残っていたのは人の形をした影と一度だけ打たれた武器。それは現在も王都の地下に危険物として封じられている。


 その事件があったのが20年前。

 しかし、その純度100で出来た機械の腕が自らの目の前にある。


 シンクは冷静な表情をしながらもその内心、興奮を抑えられておらず、バサラにあることを持ちかけた。


「先生、俺はあなたに決闘を申し込む」


「へ?」

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