十二話 初めては獣狩りですか? 其の参

 ユースからの決闘の申し出に、バサラは渋った。


 決闘はミレニア王国において最も実戦に近い、形式試合である。


 装備も自身が一番力を発揮しやすいものを用いることを許可されており、相手の命を奪うこと以外、何をしても良いとされている。


 バサラはそれを知っており、ユースを傷つけてしまい、もしも、彼の未来を奪ってしまうことになるのではと考え、頭を縦に振ることが出来なかった。


 決闘は互いの了承が無ければ行えない。

 若人の未来を自分を認めてもらうために潰すことになったとなるとそれが一番バサラにとっての最悪であり、もしもの可能性が1ミリでもあるのであれば、彼は判断を渋った。


「御師様、遠慮は入りませんよ。私が鍛えてますから生半可な実力ではこの場には立っていません。なので、全力をユースに見せてあげてください」


 ジータは渋るバサラの背中を押すと、それを聞き、苦虫を潰した様な顔でユースの申し出に応えた。


「う、うーん、わかった。カツラギ・バサラはユース・ダリアの決闘を受ける」


 最後まで煮え切らないバサラにユースは更なる闘志と怒りを燃やした。


***


 ニーベルング城、騎士棟第三訓練場。

 少しばかりの雑草が生えるだけの土に覆われた舞台フィールドをバサラはトントンと踏みながら自分の体にどう影響するかを確認した。


(地面の感じはよく踏み込んでも滑らないし、いい感じ。後は、今日一日の連戦による疲労感。最高とは言い難いパフォーマンス。でも、彼を認めさせるにはこれしかない。ジータが僕を推してくれているんだ。それなら僕もそれに応える義務がある)


 バサラはそう考えると全身の力を引き締め、闘志燃えたぎるユースの前に立った。


(うーーーん、もう、ものすっごい怒ってる。僕としては仲良くしたいんだけどな)


「おい」


「ひゃい!」


「そんな装備で俺に挑むのか?」


 ユースの手には特異なる剣と体に武具を纏っていたにも関わらず、バサラは腰に剣を差しただけ。


 公平性を伴わないこと。それはユースにとっての最大の侮辱の様に感じ、先程よりも怒りを向けていた。


「うん、問題ないよ。これが僕の型だから」


「そうか、なら痛めつけられても後悔するなよ」


 互いの会話はそこで終わり、握手をすると距離を取る。


「これより、ユース・ダリア対カツラギ・バサラの決闘を始める。立会人はラビ・ダリアが執る。両者、礼、構え、始め!」


 決闘の火蓋が切って下されると同時に、ユースは一気にバサラの間合いに入り込んだ。


(ジータ様がこの男を認めても、俺は、俺だけは認めない! こんな男が、こんな男がジータ様の、の! 好みであるなど! 断じて!)


 怒りと闘争のドリップ。

 それを全て一撃に乗せ、突く。


 ユースが握るのはレイピア。

 刀身は美しくしなやかで、柄には紋様がなされている。それを出来る限り、用いる限りの全力でバサラ目掛けて放った。


 バサラはそんな彼に対して、すでに剣士としてのスイッチを切り替えており、対照的に、冷静に対処する。


 レイピアの一撃を左手で握る剣の刃で逸らし、ユースのがら空きになった体目掛けて空いていた腕で突きを放った。


 バサラの型。それは拳術と剣術、その両方を交えた複合武術マルチアーツ。ほんの一瞬の間の攻防にて、その試合を見ていた騎士たちを一気に騒がした。


 突きをくらったユースはその重い一撃を喰らい、地面に片方の膝を突いてしまう。


 見たこともない技術に対して、あれが武術なのかという声。様々な、意見はあれど、バサラは一撃でユースを、ジータの右腕である騎士に膝をつかした。


 それは紛れもない事実である。

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