松葉おろし
二革 圭(ふたかわ けい)
松葉おろし
いちみつまつるてらくらか。さすべらかっと言うならば。なればなるほど実重く里へ、からっきしというものがらす所々に水惑いし吸えぬと空気が踊っていても気が済むまで動いていりゃあいずれ帰って来るだろう。
くるすダンスを引いてみたら中から多量の物々が、溢れ出た。泡触れああふれ渡し。床がびしょぬれて足の踏み場なくしてなくなく外出したが雨だった。
雨はしとりと粒が地に触れ集まった水溜まりもやがて川になるのだろうな。筏(いかだ)やら舟なぞこしらえてみるのもよかろうか。絵草紙(えぞうし)筆取りし、でも濡れりゃ描くのも描けやせずポリポリ頭を掻いてりゃもう三日ほど風呂に入っていない。薪(まき)もない播(ま)く種もなく上には全く実がならず腹が減って力も出ず「ああ」と呆気(あっけ)た顔で息を吸うのもいやとなり、隣でみゃんと鳴く猫が足先に来て擦ってきて身ぶるい。飯時ならばねこまんまでも食べさせてあげられただろうが、あいにく食べる物がなくあいにくの雨。照らす月日がどこにあるとまだ昼なのかそれとも夜なのかも分からず長屋の隅でキーコー織り込むハタ女を尻目に、目をそむけて再度空に視線を転じた。
あの女は、妖怪の類かもしれん。全く、喋る様子もない、他人のことをとやかく言わないけども。戸棚にたしか芋があったような。腐っているのかもしれん。まあ、薪(まき)がなければ煮ることも焼くこともできゃせんが。
せんがらどっこびろしゃんと。ハタ女の織り音がこぎみよくてつい眠ってしまいそうだ。この貧乏座敷に転がり込んで、始終ああしてハタ織っている。もし手でも出してみろ。血相変えて金を要求されてはかなわん。
今夜は、生の芋でもかじるか。ああ、せちがれえ。猫はいつのまにか居なくなっていた。ハタ女もいつのまにか、居ない。ハタ音は雨音へと変わり、薄暗い室内にヒューッと風の音もなり、肩を抱いてもう一度身ぶるいすると、戸棚からろうそくを取り出し火をつけた。
松葉おろし 二革 圭(ふたかわ けい) @urmatorakichi55
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