お義父さんの恋人
沙羅双樹
第1話 お義父さん、あなたどこ行ってるんですか。
佐藤由紀の義父、義郎はこのところ、土曜になると朝から外出するようになっていた。理由は、麻雀だと言っていた。
「会社員だった頃の取引先の中野君がさ、あいつも退職してやることないからね、麻雀やろうって誘ってくるんだ。中野君には世話になったから断れなくてね」
義郎はそう言い、その日も朝九時だというのに家を出ようとしていた。
「また中野さんと麻雀ですか?」
「そうなんだ」
「こんな朝から?」
「ああ、中野君もヒマだからね」
「今夜は何時頃お帰りですか?」
「夜遅くなるか、ひょっとしたら明日の朝かもしれないな」
由紀はあきれて言った。
「お義父さん、無理しないでくださいね。いい齢して徹夜麻雀なんか。血圧の薬、飲んでるんでしょ? 倒れたら大変ですよ」
「大丈夫だよ」
「何が大丈夫なもんですか。お義父さんが倒れたら困るのはあたしなんですよ。気をつけて行ってらっしゃいね」
義郎は、まるでその言葉が聞こえないかのように、楽しそうに家を出て行った。
翌日の日曜、午前10時を過ぎても義郎は帰ってこなかった。由紀は夫の晃に言った。
「お義父さん、まだ麻雀やってるのかしら?」
晃は言った。
「負けが込んで帰れないんじゃないのかな。大負けしちゃてさ、少しでも負けを取り戻すまではやめられないなんて言って、躍起になって打ち続けてるような気がするね」
「麻雀ってそんなに負けるものなの?」
「負ける時は10万も20万も負けるよ」
「あきれた…そんなことに夢中になるなんて」
ちょうどその時、家の固定電話が鳴った。由紀が出ると、聞き覚えのある男の声だった。
「中野です。由紀さんですか? お義父さんはいますか?」
「父ですか? 父は昨日の朝、中野さんと麻雀があるからと言って家を出て、それからまだ帰ってきてませんよ」
「え? 私と麻雀?」
「そう言ってました。毎週土曜になると中野さんと麻雀だって言って出かけてますけど」
「ちょっと待ってください。義郎さんとはもう一年くらい麻雀してないんです。仲間と話していているうちに久しぶりに義郎さんと打とうかってことになって電話したんですけど、携帯にも出ないし、それでそちらにかけてみたんです」
「え? じゃあ、父は中野さんとは会ってないんですね?」
「会ってないですよ」
会話が途切れ、少し間があった。
「とにかく、私が久しぶりに麻雀しようと言ってたって、お義父さんに伝えてください」
電話が切れた。由紀は驚いて晃に言った。
「あきれた。中野さんと麻雀なんて、嘘だったんですよ」
「どこで何してるのかねえ」
「あたしたちに心配ばかりかけて。帰ってきたら問い詰めてあげます」
と、由紀は言った。
(続く)
お義父さんの恋人 沙羅双樹 @kamyu_winter
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