鍍金を剥がす・一

「あ、見られちゃった?」

 力を感じない曇った表情が、私を見た途端にいつもよく見た笑顔に解けてゆく。

「あ、いえ」

 今更意味のない、取り繕えない否定の言葉を聞いて彼女は笑った。

「相変わらず嘘は下手なんだ」私の頭を撫でながら笑う彼女の声には、やはりあの頃のような覇気がなかった。

 

 地元の豊かな木々をバックに、私達は健やかに育った。

 すこし気弱な私の手をいつも引くのは、すこし年上の彼女だった。溌剌、明朗快活。自由闊達で力強いその手に引かれて、私はいろいろなことをしたしいろいろな景色を見た。川に飛び込んで海に出て、すこしばかりの無茶も通してしまう彼女の横顔を、私は本当に美しいと感じていた。


 それがどうだ。都会に出た彼女を追ってきたらこの有様である。片付けも行き届いていないであろう部屋で、目の下に薄い隈を付けて、力なく溜息を零している。見たことがなかった。見ることもないと思っていた。薄い光しか届かない部屋で息をする彼女の彩度が、私の目には限りなくモノクロに近い色で映っていた。

「見られたくないところ、見られちゃったな」

 彼女は言う。違う。

「内緒にしておいてくれない? ほら、私らの仲じゃん」

 続く言葉を制止しそうになって、なんとか堪えた。

 違う。彼女はこんなこと言わない。

 彼女の輪郭が継ぎ接ぎに見えていた。パッチワークの上に鍍金が塗られていて、私はそれに気が付いている。なぜって、傷付く前の彼女を知っているから。天衣無縫だった頃の貴方を見ていたから。それを追って今日まで生きてきたから。

「わかりました」喉から声を絞り出した。本音を精一杯押し殺して。

「さすが、私の妹だ」彼女の笑いすら、もう作り物にしか見えない。

 脳漿を走る衝動を抑え込んで、私は唇を噛んだ。私がのみを入れなければ、誰も補修の跡には気付かない。


 ……これ以上壊れる前に私が彼女を終わらせたいなんて思いが零れてしまう前に、過去は捨ててしまうべきなのだろうと思う。そうでなければ、私は人殺しになってしまう。どこか遠くへ。私を、彼女からはるか遠くへ。

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