母からの手紙

清春 純

母からの手紙

 数年前から、自分の家に母からの手紙が届く。

その内容は至ってシンプルで、自分のことを心配してくれている親切な内容。


 [〇〇(自分の名前)、つい最近一人暮らしをするって言って東京へ旅立っちゃったけど、

元気?

お母さんはあれから〇〇のことが心配で心配でたまらないよ。

風邪はひいてない?

仕事は大丈夫?

周りの人とはうまくやれてる?

辛くなったらいつでもこっちに来てもいいんだよ。

仕事頑張ってね!]

という感じの手紙が月に一回ぐらい、早ければ週に一回というペースで届く。

相変わらず過保護だなぁ。と思いながらも俺はお母さんにこれだけ大事に思われているのかと考えると、疲れ切った心と身体が少しだけでも前までは癒されていた。

しかし俺はお母さんの手紙に返事をしていない、いや、できないというのが正しいか。

そんなお母さんからの手紙で印象に残った思い出がちょうど3年前の出来事だった。



 その日もいつものようにお母さんからの手紙が届いた。

[お母さん、さみしいよぉ。

手紙も返事してくれないし、実家にも来てくれない。もうそろそろこっちに来てくれてもいいでしょ?〇〇も仕事や人付き合いで疲れてるでしょ?楽な気分になりたいでしょ?

〇〇が大好きなハンバーグとか作ってあげるからたまにはこっちに来てほしいな。]

余りに反応しないからかその日の手紙は、

いつにもまして寂しさが強調されていた。

仕事が忙しいのもあるが、こんなに寂しがられていると、少しばかり罪悪感を感じていた。

しかし問題は一ヶ月に届いた手紙だった。

その日もいつものようにお母さんから手紙が届いた。

[明日⚫️⚫️県⚫️⚫️市⚫️⚫️町の⚫️⚫️に来い]

というものだった。

いつもとは違いすぎる内容の手紙だったので少し驚いた。

そこは、昔お母さんといつも行ってたラーメン屋だった。

しかし当日身体を壊してしまいそこには行けなくなった。

そして自宅でしばらくニュースを見ていると、背筋が凍ったような感覚におちいった。

なんとその例のラーメン屋が原因不明の火災事故で全焼してしまったそうだ。

しかもその日は休業していた日にも関わらず。

あの日自分がそのラーメン屋に言っていたらと思うと震えが止まらない。

まさかお母さんはこれを狙っていたのか?

嫌まさかな。



 と、今までお母さんの手紙について話していたがそもそもの話、今もこうしてお母さんから手紙が届くこと自体がありえない。

なぜならお母さんは十年も前に交通事故で亡くなっているからだ。

おそらくだがお母さんは自分だけがあの世に行くのを寂しがり俺にも一緒にあの世に行ってほしかったのだろう。

しかし最初のうちは死んだお母さんに手紙越しで会えるということに嬉しさを感じていたのだが、月日が過ぎるにつれなんだが怖くなり手紙を読まない時期もあった。

そしてお母さんからの手紙は今でも家のポストに届いている。

どうやら自分が死ぬまでは手紙が届き続けるようだ。

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母からの手紙 清春 純 @jun_kiyoharu

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