第12話 左か右か

「ルールは絶対だ」という言葉がこの二つ目の「ゲーム」にも当てはまるなら、面具に書かれた内容は解決策となるはずだ。


だが、それをどう解読すればいいのか?


魚叉はいつ発射されるのか?


「時計は止まらない」……。


まさか、一時一刻なのか?


夏目はテーブルの上の時計を見た。今はもう一時五分だ。「一時一刻」が魚叉の発射時間だとすれば、今残りは十分もない。


「家郷の方向に向かって百回回れ」……。


ここにいる九人の家郷はそれぞれ異なるし、「百回」というのも少なくない数だ。


考え方を間違えれば、あっという間にこの十分を無駄にしてしまうだろう。


だが、この部屋の中で、自分以外に何が「回転」できるのだろう?


夏目の視線はテーブル中央の時計に止まった。


彼は身を乗り出し、時計を軽く触れてみたが、時計はテーブルにしっかりと固定されていて、微動だにしなかった。


「時計は動かない、では椅子か?」


夏目は下の椅子を見下ろした。古びてカビ臭い普通の椅子で、ただ地面に置かれているだけで、特に何も仕掛けはなかった。


そうであれば、残るのは……。


夏目は手を伸ばしてテーブルを回転させた。すると、やはりテーブルの内部から微かな鎖の音が聞こえてきた。


しかし、テーブルは重く、かなりの力を使っても数センチしか回せなかった。


「百回……」。


この数字は二、三人だけでは達成できるものではない。九人全員が協力してテーブルを回転させることで、ようやく生き残る可能性が生まれる。


林檎は夏目の動きを敏感に察知し、みんなに止まるように叫んだ。


皆はテーブルのそばに寄り、確認すると、確かにテーブルは回転できることがわかった。


「やっぱりお前はすごいな、詐欺師。」佐々木雄弘は頷きながら言った。「このテーブルを百回回せば、見えない扉が開くはずだ。」


夏目は再び時計を見た。時間が迫っているが、今の問題はもっと純粋なものになった。


この円卓を「家郷」の方向に百回回すとなると、選択肢は二つしかない。


左か、右か。


だが、みんなの家郷は東南西北それぞれに分かれている。どの方向に回すのが正解かをどうやって決めるのか?


「夏目、魚叉がいつ発射されるか知っているのか?」林檎は口と鼻を押さえながら尋ねた。


「ヒントには「一刻も止まらない」と書いてあるから、恐らく一点十五分に発射されるだろう。」夏目は静かに答えた。


佐々木雄弘はその言葉を聞いて顔色を変えた。「それじゃあ、残り十分もないってことか?早く回し始めよう!」


花田博はテーブルに伏せていた死体を脇に寄せ、ゆっくりと座り直し、テーブルの重さを試して言った。「でも、私たちには一度だけのチャンスがある。こんな重いテーブルを百回回すのは、方向を間違えたらどうするんだ?」


「それでも五十パーセントの生存希望があるじゃないか!」佐々木雄弘は焦って言った。「動かないよりは死ぬ確率が低い。回せば五十パーセントの希望がある、急ごう!」


そう言うと、彼は全力を尽くしてテーブルを左に回し始めた。


佐々木雄弘は見た目は痩せているが、力は非常に強い。一人でテーブルを半周回すことができた。


「まだ動かないのか?!頼む、手伝え!」佐々木雄弘は皆に叫んだ。


残りの人々は彼の言うことが正しいと理解し、仕方なく彼と一緒にテーブルを回し始めた。


今や正解はない。運を天に任せるしかなかった。


だが夏目は一向に動かなかった。


彼は考えの方向がわからなかった。


左か、右か?


なぜキーワードが「家郷」なのか……。


北が上、南が下、左が西、右が東、答えは「右」?


西に住んでいる人はどうなるのか?


あるいは、そこにいる人たちの故郷が春秋時代の「左伝」に関連しているなら、答えは「左」なのか?


夏目は目を閉じ、二体の死体を使って自分を隠そうと思ったが、他の人全員が死んでしまったら、次のゲームが来たときはどうするのか……。


「今は彼らを見捨てる時ではない。」


夏目は心の中で思い、手を伸ばして回転しているテーブルの上から白い紙を一枚つかみ、ペンを持って立ち上がり、離れた場所に移動した。空いている場所に座り、「シャシャ」と何かを書き始めた。


皆は少し戸惑ったが、手の動きは止まらず、すでにテーブルは十数回回転していた。


「彼が自己紹介のときに「詐欺師」と言わなければ、数学学者だと思ったかもしれない。」佐々木雄弘は隣のアイナに言った。


アイナはさっき自分が回転したときに少しめまいがして、適当に頷くしかなかった。


今回の夏目は縦の式を列挙することはせず、紙に大まかに国の地図を描いた。


「故郷……?」


彼の頭は急速に回転し、突然何かを思いついた。


「待て待て……」夏目は目を大きく見開いた。「もし「主催者」がこれほど神通力を持っていて、こんなにも多くの省から似た経験を持つ人を見つけられるなら、「省」も重要なポイントなのか?」


彼は振り返り、回転しているテーブルの皆を見て真剣に尋ねた。「さっき、故郷のことで誰かが嘘をついた人はいるか?」


皆は首を振った。


結局「故郷」は訛りや表現習慣に関わるため、嘘をつくと簡単に矛盾が出てしまう。


「良い。」夏目は微笑んで頷いた。「今、皆の故郷を一人ずつ再度教えてくれ。」


朽木警官が最初に言った。「私は北海道札幌です。」


夏目は北海道の位置に黒点を描いた。


「盛岡です。」弁護士が冷たく言った。


「秋田です……」アイナが言った。


「金沢です。」が言った。


「青森です。」佐々木雄弘が言った。


「名古屋です。」林檎が言った。


「福岡で働いています。」花田博が言った。


夏目は皆の故郷を地図に一つずつマークし、自分の「東京」を書いた。


夏目は最後の県も地図にマークし、草図上には九つの黒点ができていた。


「やっぱりそうか。」


夏目は小声で言った。「すぐに止めて、右に回れ。」


「右?」


夏目は急いでテーブルのそばに走り、白い紙をテーブルの上に投げて、逆の方向にテーブルを回し始めた。


皆は少し戸惑ったが、彼について回り始めた。


花田博はテーブルの上の地図とその九つの黒点を見た。


「なぜ「右」なのか?」


夏目は力を入れてテーブルを回しながら言った。「『秋田』と『盛岡』の位置を結ぶと横線になる。」


「『福岡』、『青森』、『札幌』は『丿』を形成できる。」


「そして『東京』、『名古屋』、『金沢』、『いわき市』の四つの点は、ちょうど『右』という字を形成する。」


「 松川春樹の故郷がどこであれ、川崎または横浜のいずれかであれば、必ず『口』の字を作る。だから答えは最初から決まっていた。」


皆は手を加速させながら、異様な目つきを浮かべた。


夏目の考え方は非常に飛躍していたが、二回連続で謎を解いてしまったので、みんなは疑念を抱き始めた。


夏目自身もそのことを理解したので、皆に言った。「誤解しないでください。次のゲームが自分を生かすために他の人を捨てるものであれば、私も迷わず自分を生き延びさせる。」


彼の言葉を聞いて、皆は黙ってしまい、歯を食いしばってテーブルを回し続けた。


九人はテーブルの周りに座り、右に向かって絶えず回していた。


「今、何周した?」佐々木雄弘が尋ねた。


「二十六周。」林檎が答えた。


「それも数えられるのか?」佐々木雄弘は目を瞬きさせた。「このテーブルは同じに見えるのに。」


「テーブルの血痕を見て数えた。」林檎は真剣に言った。「カウントは私たち心理相談士にとって重要なの。」


夏目は眉をひそめた。「まだ三十周に達していない。急がなきゃ。」


皆は静まり返り、手の動きを加速させた。


しかし、テーブルは後半に進むにつれて動かしにくくなり、内部のチェーンがますますきつくなっているようだった。


「なんだこれ?」佐々木雄弘は歯を食いしばって言った。「あまりにも重すぎる。」


「頑張れ……ひょっとしたら本当にドアと繋がっているかもしれない!」アイナも歯を食いしばりながら言った。


彼女の言葉は、皆に絶望の中でわずかな希望をもたらした。


ドア。


この部屋が無から孔を生み出せるなら、どうして無からドアを生み出せないだろう?


皆の腕は少し疲れを感じていたが、それでも一周一周とテーブルを回し続けた。


「皆、あきらめるな!あと五周だ!」林檎が大声で叫んだ。


その時、皆は歯を食いしばり、力を入れ続け、誰も緩めることができなかった。


「カラ、カラ。」


最後の一周を終えると、テーブルは明らかに何かにはめ込まれた。


皆はようやく息を吐き、腕の疲労感がじわじわと押し寄せてきた。


今、一時十五分まであと三分だった。


「ドアはどこ?!」佐々木雄弘が焦りながら叫んだ。


周囲の壁は何も変わらず、漆黒の空洞の中には冷たい魚叉の寒光が見えた。


「なんだ!ドアがない!」佐々木雄弘の声には絶望感が漂っていた。


「違う!私たちは間違った!」肖冉が叫んだ。「左に回るべきだったのか?!あの詐欺師を信じてはいけなかった!私たちは皆死ぬんだ!!」


夏目は少し眉をひそめた……


間違っているのか?


皆が反応する前に、テーブルの中央にある座時計が突然異変を起こした。


それは軽く震えた後、八道のレーザーを発射した。


八道のレーザーが座時計から発射され、徐々にテーブルの端に移動して停止した。


皆が困惑している中で、座時計はテーブルをまるでピザのように正確に九つの同じ大きさの扇形に分割した。


「ドン!」


大きな音と共に、テーブルは四分五裂した。


中央の座時計は今、小さな木の杭の上に立っていた。


時間が非常に切迫していたため、皆は慌てて動いていた。


「これは何だ?」松川春樹が驚きの声を上げた。「テーブルがどうして壊れたんだ?」


李警官はこの時、各扇形のテーブルの裏にハンドルがあることに気づき、長年の職業経験からすぐに何を意味するのかを理解した。


「盾だ!」


彼は扇形のテーブルを持ち上げ、自分の前にかざした。


「この盾で魚叉を防ぐことができる!」


皆はこの言葉を聞いて、それぞれ自分のテーブルの板を持ち上げた。


しかし、わずか十数秒後、皆は問題の所在に気づいた。


“どうやって防ぐべきか?!”弁護士の中村絵麻は珍しく慌てた様子で言った。「四方から魚叉が飛んでくるなら、私たちは一つの方向しか防げないんだ。」


「協力しよう。」夏目は我に返り、言った。「私たちは円を作り、お互いの背中を守り合おう。」


皆はその言葉に従い、すぐに隊形を調整し、静かに待機した。


その時、皆の耳にはお互いの呼吸音しか聞こえなかった。


九人の見知らぬ人々が、今やチームメイトとなり、欠かせない存在となった。


夏目はふと作家の松川春樹の方を振り返ると、彼の顔は細かい汗で濡れ、全身が震えていて、非常に緊張しているように見えた。


その時、部屋の外の遠くで再び鐘の音が響いた。


「大丈夫?」夏目は尋ねた。


「何、何でもない……」松川春樹は首を振った。


「ねえ!花田博、テーブルをひっくり返して!」中村絵麻が突然言った。


「なんで?」花田博は自分の手元のテーブルを見た。尖った方が下で、広い方が上だ。


「そのままだと僕の足を防げない!」中村絵麻は緊張した様子で言った。「僕は射抜かれるよ!」


「ひっくり返すと頭を守れなくなる!」花田博も負けじと反論した。「頭と足、どっちが重要なんだ?」


二人の口論を聞いた他の人たちは、花田博の言い分に賛同するように、次々と扇形を回転させた。


尖った方が下で、広い方が上。


こうなると、不思議な状況が生まれた。


それは、四方八方から飛んでくる魚叉は上半分しか防げず、全員の足が傷つくことになる。


「これで本当に大丈夫なの?」雨宮理奈は驚いた様子で言った。「足を尖った部分に隠せても、背後からの魚叉はどうするの?天井からの魚叉はどうするの?」


「僕が上を防ぐよ!」朽木悟は自分のテーブル板を持ち上げた。「皆、近くに来て。君たちを守る。」


林檎はすぐに考えを巡らせ、「残りの人は上下に配置しましょう。各自がずれて並べればいい!」と言った。


「そう!理にかなってる!」佐々木雄弘も賛同した。


「違う。」夏目は二人の言葉を遮った。「皆のテーブル板が魚叉に対して垂直だと、すぐに貫通される……」


「イケメン、じゃあどうするんだ?」佐々木雄弘は尋ねた。


夏目の視線は地面に落ちている羊皮の仮面に止まった。


「どうして春の竹は雨を恐れないのか?」


最後のヒントの言葉が夏目に何かを思い起こさせた。


「待って、もう少し時間をくれ。」夏目は眉をひそめた。


皆は息を呑み、魚叉が発射されるまでの残りの時間をじっと見つめた。残り一分しかなかった。


「もう彼のことは忘れろ!」花田博は冷たく言った。「林檎の言った通りに、ずれて配置しよう!」


「お前、そんなこと言ってる場合か!」佐々木雄弘も叫んだ。「俺はあの詐欺師の言葉を信じてる。」


「お前!」花田博は歯を食いしばり、言葉を飲み込んだ。


「できた!」夏目は突然目を見開いた。「皆、尖った方を上に向けて!」


皆は少し疑いを持ちながらも、大部分の頭は真っ白になり、仕方なく従った。


花田博も少し考えた後、尖った方を上に向けた。


「皆、身をかがめて!」夏目は続けて言った。「尖った方を後ろに移動させて、くっつけて。朽木悟も上を防ぐ必要はない、私たちと一緒に!」


夏目の指示のもと、皆は扇形を徐々に並べて、円錐形を形成した。


誰もが思いもよらなかったのは、全ての扇形がぴったりと合い、四方と上方の隙間を防ぐことができたことだ。


遠くから見ると、円錐は春の竹のようで、降り注ぐ大雨を待っているようだった。


皆は暗い空間の中で緊張した心臓が「ドキドキ」と高鳴り、呼吸の音だけが響いていた。


「来る……」


夏目は心の中で時間を計算し、静かに合図を出した。


次の瞬間、皆は風の音が炸裂し、見えないものが夏目の手に持つテーブル板に強く衝突する音を聞いた。


続いて、四方八方からの音が嵐のように押し寄せてきた。


魚叉の力は驚くほど強く、皆は腕が震えて生痛を感じ、テーブル板を握れなくなりそうだった。


幸い、皆のテーブル板は今、互いに押し合っており、微妙なバランスを形成していた。


「アッ!」


雨宮理奈の前のテーブル板が突然魚叉に貫かれ、彼女は叫び声を上げた。


夏目は振り返ると、その魚叉が雨宮理奈の目の数センチのところで止まっているのを見た。


テーブル板が十分に硬かったおかげで、雨宮理奈は今、死んでいたかもしれなかった。




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