第8話 真実?
この一言で、皆の目が覚めたかのように、同時に夏目も目が覚めた。
そうだ、「嘘つき」の勝率は確かに高すぎる。
夏目は眉をひそめた。自分の勝率がこれほどまでに高いのは、いったいなぜなのか?
見知らぬ人たちに嘘をつく。それらの人たちは自分のことを知らないし、何もわかっていない。適当な嘘をついたところで、誰もそれを見破ることは難しいだろう。
まさか、偽名を使うだけで、八人の命を葬ることができるというのか?
それとも……?
「嘘つき」を引き当てた者は、選ばれた存在だというのか? これはもともと不公平なゲームなのか?
「違う……」夏目は心の中で呟いた。「もし引き当てただけで生き延びられるのなら、カードに『生』とか『死』と書いておけばいい。それならもっと目的に合致するはずだ。だが、この1時間近くのゲームにはどんな意味がある?」
彼の心に深い違和感が広がり始めた。
夏目は山羊頭の言葉をひとつひとつ思い返した。
まさか……
「おい、次はお前だ。」佐々木雄弘が手を伸ばして夏目の肩を軽く叩いた。
その瞬間、夏目は我に返り、周囲の人々が奇妙な目で自分を見つめていることに気づいた。
今となっては、これ以上考え込んでいる暇はない。さもなければ、さらに怪しまれてしまうだろう。
彼は気を引き締め、思考を整理した。
頭の中では「俺の名は佐藤けい、東京出身だ」という言葉が何度も浮かんでいたが……
今この場では、絶対にその答えを使うわけにはいかない。このゲームの「解答」を見つけるためには、賭けに出るしかない。
夏目は目を開け、皆に向かって話し始めた。「皆さん、俺の名前は夏目賢、東京出身で、職業は詐欺師です。」
「詐欺師?」
その場にいた全員が、夏目の最初の言葉を聞いた途端、驚きの声を上げた。というのも、「詐欺師」という役割は多くの人の物語に出てきたからだ。
この詐欺師は、どことなく皆の物語をつなげる存在でもあった。
もっとも皮肉なことに、彼らは今、「詐欺師」が語った話が真実かどうかを判断しなければならないのだ。
「ここに来る前、俺は二百万の金をどうやってきれいにするか、頭を悩ませていた。」
「結局、百四十万が手元に残った。それでもこれが一番コストを抑えられる方法だった。」
「だが、金を持ち帰る途中で地震に遭い、家が揺れているのを目の当たりにした。」
「通常、このような状況では、絶対に室内に入るべきではない。家がいつ崩れるかわからないからな。だが、家の中にいる者が心配で、思わず駆け込んでしまった。」
「案の定、家に入った途端、玄関の屋根が崩れ、俺は下敷きになり、意識を失った。」
夏目は淡々と語り、わずか数言で物語を終えた。皆は警戒の目を向けたまま、彼を見つめていた。
彼は、自分が非常に危険な賭けに出ていることを理解していた。しかし、こうするしかなかった。これで自分の考えが正しいかどうかを確認することができるからだ。
夏目の予想通り、山羊頭がゆっくりと前に進み出て、皆に向かって言った。「素晴らしい。全員が話を終えました。今、自分の目の前の白紙に、一つの名前を書きなさい。」
「やはり!」夏目は目を光らせた。「やはり20分の猶予があるんだ!」
これで全てが説明できる!
残された20分は、彼らの生死を決定づける最後の時間だ。
佐々木雄弘と朽木悟はお互いに投票しようと睨み合っていた。二人は職業柄か、敵意を剥き出しにしていた。
一方、花田博医師は作家の松川春樹に質問をぶつけていた。松川の物語は、他の誰の物語とも全く関連がなかったからだ。
中村絵麻弁護士とアイナは夏目に疑いの目を向けていたが、林檎、松川春樹、そしてアイナはまだ迷っているようだった。
表面的ルールに従えば、このゲーム「嘘つき」はすでに勝利に近づいている。
なぜなら、票が統一されていないからだ。
ルールは明確に示されている。皆が同時に嘘つきを選ばなければ、8人は一緒に生き残ることができない。
夏目は何の議論にも参加せず、静かに目を閉じた。
無数の手がかりが彼の頭の中を巡っていた。
山羊頭は言った。「物語を語る者の中には、1人だけ嘘つきがいる。」
山羊頭は言った。「ルールは絶対である。」
山羊頭は言った。「皆さんはすでに12時間眠っている。」
夏目は目を開けた。今、彼が必要とするのは最後の1つの情報だけであり、この「問題」を解決することができる。
しかし、その情報はどこにあるのだろう?
突然、彼の頭の中にひらめきが閃いた。
壁や床の交差する線が彼を瞬時に目覚めさせ、彼はテーブルの時計を見た。もうすぐ1時になる。
「なるほど、そういうことか……」夏目は目を見開いた。「危なかった……私は明らかに嘘つきなのに、あなたたちに騙されるところだった。」
他の人々は夏目の異変に気づいたが、この嘘つきは最初からほとんど話をしなかったため、彼が何を考えているのかわからなかった。
「ねえ、もう一枚紙をもらえない?」夏目は山羊の頭に尋ねた。
その言葉を聞いて、山羊頭は明らかに驚いたようで、試しに尋ねた。「君……まだ紙が欲しいのか?」
「はい。」夏目は頷いた。「草稿用紙が必要なんだ。」
山羊の頭はしばらく沈黙した後、自分のスーツのポケットからもう一枚紙を取り出し、夏目に渡した。
夏目は遠慮せず、紙を受け取ると計算を始めた。
彼は壁面の大きなマスを数えた。全部で9個、そして床と天井のマスは全部で16個だ。
「間違ってなければ……」夏目は素早く何かを書き始めた。「マスは1平方メートルあたり1個、つまり私たちは現在、高さ3メートル、長さと幅が4メートルの部屋にいるということだ……」
「4×4×3……48立方メートル。」
夏目の手はわずかに震えていた。「足りない……全然足りない……」
他の人々は夏目を理解できず、これは明らかに誰が嘘をついているかを推論する問題なのに、彼は数学の問題を解いているようだった。
彼はさらに多くの縦式を書き出し、最終的に「54.6」と「49.14」という二つの数字を導き出した。
その二つの数字を見たとき、夏目は死んだような顔になり、何かを受け入れようとしているようだった。
もし彼の推測が完全に正しければ、今の状況は非常に恐ろしいことになる。
彼の瞳は絶えず揺れ動き、思考は遥か彼方へ飛んでいった。
皆の議論も次第に静まっていった。
目の前のこの男は議論に参加せず、ただ何かを計算し続けている。果たして彼は本当にこの問題の「答え」を見つけたのだろうか?
しばらくして、彼はようやく頭を上げ、皆を見つめた。
その眼差しには恐怖、ためらい、疑念、そして迷いが混ざっていた。
「皆さん。」夏目は喉を清めて、小声で言った。「本来なら私はあなたたちを救いたくなかった。しかし、もしあなたたちが間違った選択をすれば、私も死んでしまう。私は絶対にここで死ぬわけにはいかない。外で誰かが私を待っているので、どんな手段を使ってでも脱出しなければならない。私はこの場で答えを発表するので、ぜひ最後まで私の話を聞いてほしい。」
「お前、答えとは何だ?」夏目の近くにいた佐々木雄弘は微かに驚き、「君は誰が嘘をついているのか知っているのか?」と尋ねた。
夏目は答えず、ただ自分の「身分カード」を取り上げ、皆の前でゆっくりとめくった。
「これが私の引いた身分です。」
皆が目を凝らすと、カードの上には「嘘つき」と大きく書かれていた。
夏目の手にあるカードには「嘘つき」と明記されており、その瞬間、皆は驚愕して言葉を失った。
部屋は一瞬静まり返り、すべての人がそのカードに目を奪われ、心の中は混乱に包まれていた。皆が「嘘つき」を探し求めていたのに、まさかこの人物が自らの正体を明かすとは思ってもみなかった。
佐々木雄弘は一瞬戸惑い、信じられない表情で尋ねた。「お前が……『嘘つき』なのか?」
夏目は頷き、得意げな表情はなく、むしろ疲れと無力感を漂わせていた。彼は皆を見渡し、ゆっくりと説明を始めた。「そう、私は『嘘つき』だ。でも、事はそれだけではない。」
彼は立ち上がり、手をテーブルの上で軽く叩きながら続けた。「このゲームは、最初から単に『嘘つき』を見つけるためのものではなかった。私はずっと考えていた、このゲームの本当の意味は何か? なぜ私たちはこんなに複雑な物語や推理を経なければならないのか? 最後に、私は理解した。これは『嘘つき』を見つけるゲームではなく、私たちが嘘とは何か、真実とは何かを理解するためのものなのだ。」
「真実とは何か?」花田博が眉をひそめて尋ねた。「君は、私たちの目の前にあるすべてが偽りだと言いたいのか?」
「そうかもしれない。」夏目はため息をつき、首を振った。「しかし、今私は、この部屋には多くの不合理な点があることを知っています。時間、空間、私たちの物語……これらの手がかりはすべてパズルの一部であり、私たちが見落としていた真実を指し示しています。」
彼は壁の線や床を指さしながら説明を続けた。「私が今まで行っていた計算は、一見無関係に見えますが、実はこの部屋自体が謎だということに気づかせてくれました。私たちは皆、普通の部屋に閉じ込められていると思っていましたが、実際にはこの空間の体積と私たちの認識は一致していません。壁のマス目や床のデザイン、これらは私たちに考えるように導くためのものです。」
皆は一時的に夏目の論理を理解することができなかったが、彼の言葉には確固たる決意と緊張感が表れており、周囲の人々も不安を感じ始めた。朽木悟が思わず尋ねた。「それで、君が今計算した数字は何を意味するのか?」
「その数字は……」夏目は深く息を吸い、頭を上げて低い声で言った。「その数字は、空気中の酸素の量です。」
空気中の酸素の量? 皆は驚きの声を上げた。
「私たちがいるこの部屋は、酸素の量が異常です。」夏目は続けた。「私は部屋の体積と標準的な酸素消費量に基づいて計算した結果、54.6と49.14は、私たち9人がこの空間で呼吸できる残りの時間を示しています。」
「時間?」林檎の声は震え、彼女は言った。「君の言いたいことは……私たちが酸欠になるということか?」
「その通りだ。」夏目は頷いた。「このゲームは単に『嘘つき』を見つけることだけが目的ではなく、私たちに早く選択を迫っている。私たちにはあまり時間が残されていない。もしこのまま引き延ばせば、全員が酸素不足で窒息してしまう。」
部屋の空気は一瞬、重苦しくなり、皆は少し窒息感を覚えた。
「だから……」夏目は一人一人を見つめ、表情を厳しく保ちながら言った。「君たちは私を信じなければならない。私は今、自分の身分を明らかにした。私は『嘘つき』だ。これはゲームのルールだ。しかし、私たちは協力し、もう一つの真実を見つけ出さなければならない。そうすれば生き残れる。」
彼の言葉は、部屋全体をかつてない緊張感に包み込んだ。時間がない、選択を急がなければならなかった。
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