第4話 料理のお話
今日は休日ということもあり、俺は朝から桜坂の家でゲームをしていた。もちろん桜坂も一緒だ。
「そろそろお昼だな。お腹すいたし、何か作って一緒に食べようか」
そう提案したのは、桜坂だった。
お腹がすいているのは俺も同じだったので、一つ返事で提案に乗る。
「いいね!俺もお腹すいたし。あ、何か手伝うよ」
提案には乗ったが、桜坂一人に任せっきりというのはあまりにも申し訳ないため、ついつい反射で手伝うと言ってしまった。
こんにちは、得意料理はカップラーメンの男、根田村です。
料理なんて小中学校の家庭科でしかやったことないけど、まあなんとかなるでしょ。俺はやれば出来る子だしね。案外才能がある可能性だってある。希望は薄くとも、捨ててはいけないってのが俺のモットーなんだ。まあ、今考えたんだけど。
俺と桜坂は持っていたゲーム機のコントローラーを置き、キッチンがある1階へ降りた。
「何を作るんだ?」
「あー、テキトーにオムライスでいいだろ」
「りょーかい。萌え萌えキュン♡してくれるんだな。楽しみにしてる」
「しないわ!バカ!おまえの昼食ケチャップにすんぞ!というかおまえがやれ!」
「俺?俺の必殺萌え萌えキュン♡を甘く見るなよ?」
「やけに自信があるんだな?」
「ああそうだ。俺の萌え萌えキュン♡はな、ダイエット効果があるって評判良いんだぜ!」
「食欲消し飛ばしてるんじゃねえか!そんなもんこっちから願い下げだ!」
「おまえが始めた物語なのに。。。」
「俺はな、オムライスをおいしく食べたいんだよ。食欲低下レーザーを放つやつなんて巨人に撃退されろ!」
軽快な会話を繰り広げながらも、桜坂はテキパキとなれた手つきで冷蔵庫から材料を取り出し、料理の準備を進めている。
「さて、根田村も手伝ってくれるんだったな。おまえは材料を切ってくれ」
「任せておけ。俺の根田村流包丁術を見せてやる」
桜坂は親切に材料とまな板と包丁を俺の前に並べてくれた。材料は、タマネギとにんじんと鶏肉か。簡単そうなにんじんから切り刻んであげよう。
俺はにんじんをまな板の中央に置き、包丁を手に装備する。さあ、さくっと切っていこうじゃないか。
ナレーション変わりましてこんにちは。桜坂です。こうやってモノローグで話すのははじめてですね。はじめましてです。さて、状況を整理しましょう。
ん?根田村くんはどうしたのかって?
根田村は料理に邪魔なのであっちに追いやって、、、じゃなかった。戦闘力が高すぎる根田村には、あっちで待っててもらってます。あんまり変わりませんね。はい。お察しの通り戦力外通告です。
時を少し戻しまして、、、俺は根田村に材料を切ってとお願いした。
根田村って律儀だよな。俺に全部任せておくこともできただろうに、手伝うって言ってくれるとはな。そういえば根田村って料理できるのか?あまりできそうなイメージは無いんだけど。
そんなことを考えながら、俺はフライパンを準備して、冷やご飯を冷蔵庫から出す。
そして次に冷やご飯の入れ物のラップを取っにんじんが俺に突っ込んできた。
!?!?!?
うん、何を言っているか分からないと思うが、俺も何を言っているか分からないんだ。
にんじんロケットの数秒前、根田村はにんじんをまな板の中央に置き、包丁を手に持っていた。直後、あろうことか、包丁を頭上まで大きく振り上げた。そう、自由を象徴する女神像のように。高く。まっすぐに。その姿を俺は捉えることができていたが、あまりの衝撃に不覚にも思考が停止してしまった。すぐに我に返り、青ざめながらも全力で止めようとしたが一瞬の思考停止が命取りとなってしまったようだ。
「ちょっ、まっ!」
ズドン!
根田村はにんじんに向かって、オーバーキルとも言えるような強力すぎる斬撃を放ち、にんじんは悲鳴を上げながら空中を舞う。一刀両断されたにんじんの片方は俺に向かってロケットしてきて、もう片方はどこかに行ってしまわれた。にんじんロケットに攻撃力は無かったが、俺は致命傷を負っていた。主に精神の方。新手の精神攻撃すぎるだろ。。。包丁はまな板に突き刺さっている。ねねねねね根田村、恐ろしい子。。。
「根田村、おまえにしかできない重要な役割を任命する」
「おまえは今日から食べる係な」
「。。。はい」
自分がやらかしたことを認めているのか、根田村はすんなり戦力外通告を受け入れてくれた。
桜坂に戦力外通告をされてしまった。まあそうだよな。包丁なんて使ったこと無いし、家庭科で切り方を習った気がするけど、それも覚えていない。家庭科では鍋をかき回していた記憶しか無い。
そんな俺はキッチンの隣にある居間の席に着いていた。こちらは桜坂の部屋にあるローテーブルと異なり、天板は小さめながら背は高めの机に椅子が2つ向かい合わせに置かれている。
しばらく待つと、桜坂がケチャップと2つのオムライスを運んできた。待ってました!
桜坂はオムライスを机に置いた後、俺にケチャップを渡してきた。
「オムライスの上になんか描いてよ」
「よし、任せておけ」
とは言ってみたものの、何を描こうかな。手先が器用では無いため、ケチャップをペンの代わりにできる自信がない。一方、美術的センスも皆無なため絵も絶望的だ。は?詰んでね?
簡単そうなもの、、、簡単そうなもの、、、テキトーにクマでも描いておくか。
カキカキ
我ながらうまく描けたぜ。
「それ何?あー、根田村の似顔絵だな?うまいぞーうまいうまいー」
「そんな気持ちのこもってない褒めはいらぬわ!クマだから。クマさんだからこれ」
「クマって、何かの暗喩か隠語か?」
「暗喩でも隠語でもないから!」
「だってこれ、クマとはほど遠いというか、目力すごいしなんか寝不足っぽいし、、、まさかおまえ。。。」
「そう、だからクマだってさっきから言っているだろ。どうだ?寝不足で不健康そうだろ?」
「そっちかよ!!!普通クマって言ったら、動物の熊だと思うだろ!俺の感覚がおかしいのかと思ってしばらく迷走してたぞ!」
文句を言われたので、社畜オムライス(桜坂命名)は俺の分にして桜坂のオムライスにはハートを描いてやった。
「萌え萌」
「やらせないぞ?食欲低下レーザーやめろ」
セリフの途中で止められてしまった。まあいいだろう。
「いただきます」
「いただきます」
それぞれ食べ物への感謝を済ませた後、スプーンを手に持ちオムライスに手を伸ばす。
専門店のオムライスとまではいかないが、おいしい。この手作り感がまた良い味を出している。たまごは上にかけるだけではなく、きっちりとチキンライスを包んでいた。あれ?包むのって相当難しいイメージあるけど、それをやってのけたってことか?薄々感じてはいたが、桜坂はやはり有能なんじゃ。。。ゲームうまい、コーヒー詳しい、料理できるで非の打ち所無いよな(遠い目)さすがに言い過ぎか?
「桜坂って女子力高いよな。将来良いお嫁さんになりそうだ」
「。。。それ、褒めてるんだろうが複雑な気持ちになるから。性別変わってるし。どう突っ込んで良いか分からないぞ」
そう言いながらも、少し表情が少しゆるんでいるようだ。冗談交じりではあるが、褒められてうれしいんだろう。
そんなやりとりをした後に、俺たちはオムライスをもくもくと食べ続けた。
心なしか、一口目よりもほんの少し、オムライスがおいしくなった気がした。
根田村と桜坂のおはなし。 とりのはね @torinohane
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