第3話 カフェに行くおはなし
今日は学校で桜坂とコーヒーの話題になり、せっかくだから放課後飲みに行こうという話になって、今に至ります。
こんにちは、コーヒーの違いが分からない男こと根田村です。一方桜坂はわかるらしく、学校で饒舌にコーヒーについて語ってくれましたとさ。
日本語で頼む。。。俺には理解できなかったよ。そんなコーヒー語ペラペーラな桜坂くんに連れられ、おすすめのカフェに向かっているところなのだが。
正直俺の今の気持ちは、
高校生男子が2人でおしゃれなカフェなんて行って良いの!?あまりにも浮きすぎて、某有名ドラゴンRPGの移動魔法を室内で使ったかのように天井に頭ぶつけんぞ!むしろ天井突き破って、家に帰還したいんだが!?
であった。
一方の桜坂は、いきつけのーと言っていたので慣れているらしく、大人な雰囲気を感じてしまった。悔しいぜ。
そう考えていると、いつの間にかお店の前に到着したようだ。
「ねえ桜坂さん?」
「なんだい?根田村さん?」
「大変言いにくいことなんですが、」
「はい、どうしました?」
「帰っていいすか?」
「ダメです!」
うわあああああ。だってさあああだってよおおおお。こんなおしゃれなところ、入れるわけないじゃんよ!
外見からすでに、ドラマとかでよくみるおしゃれカフェだよここ。木製だよ?モダンなんだよ?
「だってここアレでしょ!マスターが、あちらのお客様からです(イケボ)イベントとか発生しちゃうところでしょ!?俺は健全を愛する純粋無垢な高校生なんだよ!」
「いや、それはバーだし。カフェだよここ」
「そして裏で黒い仕事を請け負っていて、知りすぎたやつは消されるんだよ!うわあああ」
「知識偏りすぎだろ!想像力すごいな!」
「とにかく入るぞ」
「待って待って待って!ねえってばあああ!!!」
いろいろテキトーな理由をつけてみたが、どうやらダメらしい。入らなきゃダメかーそうかー。。。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「2人です」
「お席へご案内いたします」
優しそうな店員さんが笑顔で出迎えてくれて、席まで案内してくれた。俺たちが案内されたのは、ソファ席だ。座ってから店内を眺めてみる。
お店の外見と同じように、店内も木製モダンで統一されており、実におしゃれな雰囲気がそこら中に漂っている。ソファの仕切りも木製で、クッション部分は赤色。机も木製で、表面がすこし輝いて見えた。
「ルー○!行き先はファミレス!」
「入店そうそう帰還魔法を唱えるのはやめなさい!」
「嫌だあああ!俺はファミレスのドリンクバーで根田村特性オリジナルブレンドを錬成する使命があるんだよおおお!」
「どんな使命だよ!飲み物で遊ぶのはやめなさい!」
オレンジ麦ティーを作ったやつが何を言っているんだ。あの恨み、忘れていないからな!いつか絶対仕返ししてやるぞ。
仕方が無いのでメニューを開き、目的もなく眺めてみる。コーヒーっていろいろ種類があるんだなー。俺にはさっぱりだ。
「なんでこんなに種類があるんだ?コーヒーなんて、全部同じじゃないですか?」
「これだから素人は。というか、全コーヒー愛好家に謝れ」
そんなやりとりを繰り広げながら、メニューを眺めていたら俺は衝撃を受けた。
「なあ桜坂、俺呪いでも受けたのかも知れん」
「どうしたんだよ急に」
「いや、それがね、さっきから値段の桁が1つ多く見えるのだよ。視覚的な呪いにかかっているみたい」
「ああ値段?都会だとこれくらいするよ?普通普通」
「嘘だあああああ!嘘だと言ってくれええええ!」
全てではないが、コーヒー1杯1000円超えのものがちらほら。俺、1000円あったらおいしいご飯食べるぞ。。。
「ルー○!行き先はダー○神殿!」
「呪いを解きに行こうとするな!」
「印刷ミスなんじゃ。。。」
「ありません!」
「誰かの陰謀か?」
「違います!」
受け入れるしかないのか、、、さらば俺の英世。あー、今は柴三郎なんだっけ。
「確かに値段を伝え忘れていたな。これは俺に落ち度があるから、今回はおごるよ」
「oh神よ、生きておられたのですね」
非常にありがたいお言葉が、全知全能の桜坂神から発せられた。冗談半分で言うこともあるが、俺はこういう気遣いを見習いたいと思っている。本当に尊敬できる優しいやつだよな。本人には言わないけど。
「いいのか?お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「じゃあ、カレーとーオムライスとー、コーヒーの飲み比べもしたいからー気になるのを3つくらいーとーあとー」
「遠慮というものを覚えなさい!」
「俺の辞書に遠慮の2文字はないんだよ!」
「とんだ欠陥品だな。貸せ!俺が書き込んでやる!」
「それに、育ち盛りの高校生の胃袋をなめるなよ?おまえのような大人と一緒にするな?」
「いや俺も高校生だし。自慢するところじゃないだろ!」
これではいつまでも決まらないので、そろそろ真面目に考えることにした。
おごってくれるようなので、多くを頼むわけにはいかない。となると、数あるコーヒーの中から1つを決めなければならない。ただ、俺は知識がなくて違いが分からないし、うーむ。
「コーヒーの中で、桜坂のおすすめはあるの?」
「ん?俺?俺はいつもオリジナルブレンドのホットを頼んでいるよ」
「じゃあ俺もそれにする」
「分かった。すみませーん!」
桜坂は慣れた振る舞いで店員さんを呼び、あっという間に注文を済ませた。
「桜坂は、どれくらいの頻度でこのお店に来ているの?」
「あーっと、週7で」
「毎日じゃねえか!」
「冗談。本当は週1ペース」
「あーなるほどぉー」
ん?それでもかなりの頻度なのでは?
「根田村は?こういうとこ来ないの?」
「俺は全然だよ。カフェなんて、今日が始めて」
「だからあんなに嫌がってたのか。最初は緊張するよな」
「お待たせいたしました。オリジナルブレンドのホット2つです」
話していたら、注文したコーヒーが届いた。店員さんが離れるのを見計らって早速コーヒーに手を伸ばす。
「あちっ。いただきます」
「いただきます」
これがこだわりのコーヒーかー。たしかにファミレスで飲むコーヒーとはちょっと違うような気がする。
「どう?感想はある?」
「苦いです!」
「。。。他には?」
「ありません!」
「おいこら」
正直に感想を答えたら、軽くツッコミを入れられた。ただ、軽いということは、桜坂もコーヒー初心者の俺に感想を求めるのは荷が重いと理解しているようだ。
2人で静かにコーヒーを楽しんだあと、お店を後にした。
「どう?コーヒーの違いは分かりそう?」
「うーん、ファミレスのコーヒーとは違うように感じたけど、はっきりとは分からない」
「そっかぁ。まあそうだよなぁ」
桜坂は少し残念そうな表情を俺に見せた。だが、次の瞬間少し表情が明るくなった気がした。
「じゃあさ、分かるまで特訓しよっか。俺がおごるからさ、毎週俺と一緒に通ってみようよ」
「いいのか?。。。そうだなぁー。うーん、、、通ってみるかー」
「よし。毎週金曜日ね。約束」
桜坂はそれはそれは嬉しそうな表情を浮かべた。
正直俺は迷った。毎週おごるとなるとかなりの出費になるはずだ。そこまで負担をかけるのは申し訳ない。それに桜坂がそこまでする理由は何なのか。単純にコーヒー仲間が欲しいのか、それとも何か別の。。。
考えたが、人の心というものは考えても分からないものだ。と思考を放棄し、俺は承諾した。
こうして、俺は桜坂とともにコーヒーの特訓を開始することとなった。振り返って、離れていくカフェを一瞥し、ここも桜坂との思い出の場所になると考えると、なんだか心が少しはずむ。
もしかしたら今の俺は、少し口角が上がっているのかもしれない。
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