第4話

ルイティアは血の底から出てきた様な断末魔を叫んだ。


「ぐあ、あ… … ッ」


胸ぐらを掴みルイティアの目から涙を頂戴しようとしてくるのは、ノッカー。

ノッカーハントレイド。

涙狩りハンターの1人、ノッカーでした。


「出しちゃいな。宝石の涙のアンちゃんよぅ。」


眼光を光らせ蟀谷に亀裂。互いに火花を散らし、互いに譲らない、譲らせろ、その氷山の一角だ。しかしこうもしつこい涙狩りの連中。先にルイティアが心折れてしまった。


「喰われぃ…!!この小僧ッ…。」


ルイの荒い息と方眼帯から、ツゥッ…と、涙を流しました。


「…。」


しかし、ドスッ と、ルイの金属メッキに拳をこづいたノッカー。


痛いどころじゃないわ。


何がこずく。こりゃ執行大罪だ。


「ゴホッ、ぅ…ッ」


「仕事なんすよ。」


砂利を蹴飛ばして首が凝るのかバキバキ鳴らして解し、足の浮いたルイに上目遣い。


後隣に、パートナーであるピッキーがしっかりとクレプシドラを捕らえている。


実に言う手錠の鎖だ。


「ル、ルイ…!」


「ダメよ、動かないで。貴女はクレプシドラでしょう。水井戸の女神様?」


…水井戸の女神…


「クレプシドラ…別名、水井戸の女神………っすよね、奥さん。」


いったい何故こうなってしまうのか…………。




廃校されたビルの裏で、涙狩りの連中に引っ掛かってしまったルイティアとカイシェルは、逃げ遅れて捕まってしまった。


……尋問どころじゃない。


果たして、ルイティア達はどうなる?





「おい。」


「…。」


ルイティアは片瞳を掠めた視界を涙で滲ませた。


痛い。


怖い。


その心境を、見ている側のカイはもっと怖くて恐ろしい想いをしている。


涙が溢れました。


「…。」


「…こ…れで…まん…ぞ…くか…。」


「………ありがとうな。」


ノッカーは、溢れ落ちた宝石の涙を、カラコロ宝箱に詰め込むと、ピッキーに投げた。


その宝箱をキャッチした同時の隙に、捕らえられていたカイシェルは逃げました。


ノッカーを突き飛ばし、倒れているルイティアに駆け寄り抱き寄せる。


「ルイ………! 私のルイ……… ! 大丈夫………!?」


「…やむをえん。」


身体を纏う金属メッキはヒビが入り割れてしまった。ルイの顔は傷を負ってしまった。


ルイティアの綺麗逞しい容姿が………。


「水井戸の女神さーん ? 貴女達は、あたし達涙狩りに捕獲された方がいいのよー?素直にねっ…って聞いてる?」


「クレプシドラ。俺達と来い。現行犯容疑で狩り挙げる。」


さぁ、来るんだ…!! と、ノッカーが、カイシェルの腕をガシッと掴みかかった。


その刹ーーー


「触らないで!!!」


パシッ


「…っ。」


「あらやだ。生意気ねぇーっ」


「生意気とはなんですか、私達は貴女方よりずっと大人ですわ…!離して、イヤッ!」


手を離した……と思いきや、ノッカーは掌を上に掲げた。


「!!…っひ」


殴られる終わったと。

ブっ飛んで死を覚悟したカイシェル。

しかし、そのブランケットは、残酷にもあたたかかった。





「…え?」


あたたかい…?




「…。」


「…。」




互いに睨み合う。カイシェルとノッカー。


ピッキーは面白そうにキャーキャー指をさしている。


「やっだノッカー、惚れた弱み(笑)」


「どこがじゃ 。」


ノッカーは溜め息を深くついて、頭を掻き揚げ、しんどそーに、カイシェルの目の前に、座り込んだ。


カイシェルは、ビクっと、仰天した。




ルイティアを、こんなめに、合わせるなんて………。カイシェルは地底に炎を燃やしつつも、その表情は酷く怯えて窶れている。




「……すんません、奥さん。つーか、ほんっっっとーに、連行される気はないんすかね。ある意味、今度は優しく保護いたしますから。」


事を終えノッカーは還りました。


任務時の神宿りが蒸発して消えたのです。


今、カイシェルの目の前に居る、この男は、ただの青年だ。

それも、先程とは違い、優しい、穏やかな、澄んだエメラルドグリーンの瞳をしている。


そう、これが本当の優しいノッカー。


「…ノッカーっていいましたね、貴方……グレてるの?なんなの?祭囃子なの?」


「ま、まつ、まつりばやし………?」


ノッカーは思った。祭囃子とは俺はグレてない。フツーの男だってーの。


まぁ、いい。事は済んだぜ………。





「…帰るぜ。」


「え、いーの?この二人逃がしちゃうの~?」


「いいんだよ。今は、まだな…。」


ふと、倒れているルイティアを見つめたノッカー。


ノッカーの視線を感じたのか、ゆっくり目を開けるルイティア。


僅かの合間、ルイティアとノッカーは、目光を交わしました。



「…。フッ。欲しいなら、奪い取れるならって話しだろう。小僧。」


「…別に。」



ノッカーとピッキーは二人の目の前から姿を消しました。光る中に、雑に転がる、宝石の涙の欠片達が、ただただ、ルイティアの分身の様な気がして静かに泣き叫ぶ様…………。



抱き締めた。


抱き締められた事に気付くと安堵して目を閉じた…。


「ルイティア…。ルイ…大丈夫…大丈夫よ………。

今だけは、私の胸の内の籠り貝とおなり。

痛みが収まるまで…この胸の内で…。」


「カイシェル…。」


…あたたかい…




知らずもう独り。


静かに泣いていた。


この役割向いてねぇし……。






「こんな酷事もう辞めてぇ…。」


「バカね。ノッカーがんばりなさいよ… ほら泣くな。」


ピッキーの胸懐に項垂れ枯れたノッカーは、枯王様との約束を破りそうだったので、ピッキーが受けとめて、慰めてあげたのでした。


-終わり-

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