第20話 『楽園にて』 その5


 高級レストランの厨房という場所は、ある意味、つまり、神聖な場所である。


 様々なたくさんの命が、最後の営みをするのだから。


 しかし、その食材のひとつとして、人類が入っているというのであれば、それは大事オオゴトだけれど、相手は宇宙生物だという。宇宙生物だろうがなんだろうが、違法だろう? くまさんだって、人を食べたら、駆除される。


 しかし、ぼくたちは、その様子を見て、唖然としたのである。


 『ね、地球人類のレストランとは、大違いでしょう? 町のレストランともまるで違う。あそこは、普通の台所。ここは、異世界よ。』


 まさに、調理場というイメージはあまり感じられない。


 食材など、まったく姿がない。


 ただし、大きなスーパー・コンピュータみたいな物体が壁一面に配置されていた。


 それは、ピーピーと鳴きながら稼働していて、そこから様々な完成品が出てくるのである。


 できた料理自体は、機械の出口から自動で現れる。見た目、あまり普通とかわらないようだった。


 そいつは、勝手に動き回るトレイに実にうまく乗せられて、配膳場所に運ばれて行く。


 『で、こちらが、集中化コントロール室ですな。』


 まるで、宇宙船の管制センターみたいである。


 『あなたは、ここで、なにをしているのですか?』


 と、呆れたぼくが言った。


 『まあ、システムがちゃんと動いているかどうかの監視ですな。オーダーリストは、各担当者がタイムカードみたいに読み取り装置に掛けるだけよ。仕事としては簡単簡単。ただし、料理の内容は、ある程度は、知らなければなりませんがな。詳しいことが必要なら、わらしが出て行きます。』


 『つまり、あなたは、詳しい?』


 『まあ、そうですな。なんせ、こいつを、400年やってますからな。』


 『食材はどこから来るのですか?』


 赤血探偵が、重々しく尋ねた。

 

 『実際のところは、地球各地から来ますよ。ただし………』


 『ただし?』


 『あなた方が知りたいところでしょうな。人間の供給は、あなたの町から来ます。』


 『はあ?』


 『ま、これは、いまは存在しない、火星文明の残したものでしてな。火星では、ながく、共食いが行われていました。公式にね。いまでも、タルレジャ王国の女王さまだけは、それを知っている。そのテクを、かつて、アガボドロ星人が応用したのが、ここです。食材は、すべて、素粒子分解されて、つまりデジタル化されて、ここに集まります。人間もそうですよ。あなたも、これまでに、20回は分解されて食事になったわけよ。で、再構成されていま、ここにいる。ははははははははあ。あの植物は、その分解と再生を行うのれすな。』


 『うな、ばかな!』


 ぼくは、呻いたのである。

      

 『だれが、首謀者なんですかな?』


 赤血探偵が、さらに迫った。


 『いいですか? ぼくをなめてもらっちゃ困る。おわかりかな?』


 マスターは、困惑の表情を浮かべたのであった。

 


      😱ちゃ〰️〰️💨

 

 


 

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