第19話 『楽園にて』 その4


 調理人さんの格好をしているその人物を見て、ぼくは、はっとしたのである。


 はっとしないほうがどうかしているだろう。


 たしかに、着ている服は違うが…


 『あ、ま、マスター!』


 その人は、町の有名レストランのマスター。警察にとっちめられた、あの、マスターさんであった。


 『やあ。こんちは。』


 『やあ、って? なんで、あなたが?』


 『そりゃ、こっちが言うべきことですぞなもし。ま、ちと失礼して座らせて頂きますだ。』


 マスターは、自分の身体には、いささか小さすぎる椅子に、よっこらせ、と座ったのだ。


 『まあ、でも、いらっさいませ。なんにしても、よく来ましたね。わたしは、つまり、ここのオーナーをやっておりますだ。町のレストランは、本当は、ここの別室というわけですだ。地下では、もう、すぐにつながっておりますわけぞなもし。あなたがた、ずいぶん、わざわざ難しい経路を辿ったね。』


 『そんなこと、わかりませんよ。』


 ぼくは、やや、腹が立った。


 『はははははは。さようですなあ。まあ、わらしも、制服は着替えるから、まあ、区別はしているわけですがぞな。』


 すると、赤血探偵が、ずばっと尋ねた。


 『つまり、ここは、宇宙生命体のレストランですな?』


 『さよう。』


 『地球の政府は、知っているのですね。』


 『むろん。もちろん、知っている範囲は限られてますが、ぞなもし。』


 『人類には、ここは認識できないのですね?』


 『さようさよう。次元が少しだけずれておりましてな。しかし、あなたは、大した方ですな。そのような装置を作るとは。』


 『たまたまですがね。ときに、ここでは、人間を食材に使っているのですか?』


 『さて、あなたがた、直に見てみますか?』

 

 『ぜひ。』


 『げっ。』


 『では、厨房に参りましょう。ご案内致しますぞな。』


 『いざ!』


 と、赤血探偵。


 『いざ!』


 と、マスター。


 ぼくは、とてもではないが、そんな気にはならないのではあったが、しかし、ここは身を引くわけには行かないと、ついに、覚悟したのである。



    😤😤😤😤😤











      


 


 

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