第10話 『草原の真実』 その2


 赤血探偵は、この時代、まだ若かった。


 新進気鋭の青年探偵だったのである。


 ただし、すでにこの世の中は、オカルト的な指導者による戦乱に疲れ果てていて、人類は勢いを失い、衰退局面に入っていた。


 にも拘らず、赤血探偵は楽観的であった。


 『むかし、ブラームスさんは、川沿いを散歩しながら、マーラーさんにこう言ったらしい。‘’わたしをもって、ヨーロッパの音楽は終焉を向かえるだろう。‘’ しかし、マーラーさんは答えた。‘’せんせ、あそこに最後の波が来ていますよ。‘’ と。』


 赤血探偵は、よくこれを引き合いに出して言っていた。


 『ほんとの最後なんて、あっという間に来るだろう。緩慢な最後は長い。楽しむべきだ。』


 ぼくは、その話を知っていた。


 『なぜ、この草原があるのかは分からないかもしれませんが、なぜこの町があるのか、なぜ、間違いが起こるのかは、知りたいのです。でも、今はなにも公開されていません。』


 『なるほど。いいでしょう。調査してみます。ただし、相手は国家だからな。ちょっと手間取るかもしれませんよ。報酬については、国から貰います。はははははは。』


 『はあ………』


 ぼくは、かえって萎縮したのである。


 『なに、心配はありません。たぶん、真実を知っているのは、にさん人でしょう。あとは気にするひとは、いない。条件はひとつ。あなた、助手をしてください。無給でね。』


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