女給と作家の大正メイズ（迷図）

序幕

序幕 消滅した十二月

　明治五（1872）年、十一月。

　政府は太陽暦を採用し、それまで使っていた太陰暦から切り替えた。

　結果、暦が大きくずれて十二月がたった二日で終わり、十二月三日がいきなり明治六年一月一日になった。

　ほとんどの日本人にとって、それは寝耳に水のできごと。「天長節」「紀元節」などの聞いたこともない祝祭日ができるし、すでに作ってあった来年の暦は？　給料の計算は？　と大騒動になるし。

　そんな混乱のさなか──

　東京市外の小さな神社で、ある異変が起こった。

　毎年十二月に行われていた儀式の一つが、暦のズレの影響で忘れられ、行われないままになってしまったのだ。

　人々は知らない。その儀式が、とある怨霊を鎮めるためのものだったことを。

　それを小さな綻びに、帝都はじわじわと不気味な厄災に蝕まれていくことになる。