第5話 久しぶりの釣り
順調に採集を続けながら、森を彷徨い歩くこと5日目。
汗とは異なる、肌に感じた湿度の上昇と微かに聞こえる水音に自然と駆け出していた。
「川だ!!」
駆け付けた先にはきらめく水面。
流れは緩やかで、美しく澄んだ水が静かに流れていた。
川幅は約15m、深さはたぶん1mと少し。
周囲を見回し、熊などの野生動物がいない事を確認すると、
「久しぶりだなぁ!」
ああ、本当に久しぶりだ……。
病気が分かる少し前から原因不明の体調不良が続き、その頃から釣をしに行く事が出来なくなっていた。
騙し騙し仕事を続け、休日にしっかり休んでも、ドリンク剤を飲んでも、ニンニク注射を打っても一向に体調が改善しないばかりか、徐々に減って行く体重。
流石におかしいと診察を受けた時には、もう手の施し様が無いと医者から告げられた。
緩和ケアを受けつつ、少しづつ身辺整理をするので精一杯で、釣りをする余裕も気持ちも無くなっていた。
慰めに釣の動画を見ても『自分で釣に行きたい』と言う気持ちが大きくなるばかりで、結局は癒し系の動物動画に落ち着いた。
我慢し続けた反動か、何がいる川なのかも知らぬまま、釣り針に餌を付けて川のなかほどへと放った。
「………何か掛かると良いなぁ」
はやる心を落ち着かせ、スッと放った釣り糸は、瞬きする間も無く水底へと引っ張られ、あっという間に釣り竿を
「うわっ!もう掛かったのか?!」
糸の引きに合わせて竿を上げてみると、20cm程の鮎に似た魚が掛かっていた。慌ててカタログでスカリ(ネットタイプの
〆るのは後でまとめてやろう。
今日は気の済むまで釣りだ。そう決めて再び竿をポイントへ向けて放る。
だが、その後も入れ食い状態でどんどん魚が掛かり続けた。
余りの爆釣に、釣り好きの和夫も流石に疲れ果て、早々に竿を引き上げたのだった。
これは魚を捌くのも一苦労だな。
自分で釣ったとは言え、スカリの中にみっちり入った50匹程の魚を前に1人苦笑する。
さあ、やるか。
ポイント交換した出刃包丁を片手に気合いを入れる。
この5日で採集した結果、ポイントもかなり貯まって来た。だがまだエア◯ィーヴを交換するには心許ない。このまま順調に貯めて行ければ近いうちに交換出来そうだしな。今しばらくの我慢だ。
手際よく魚を捌き、試しに一匹ポイントに交換してみる。
ふむ……一匹800ptか……。
交換ptを確認し、今度はカタログの最後のページをめくる。
『ライル鮎(食用可)/交換pt800』
よし。鮎で間違いなかったな。その前に付いてるのは川の名前かな?
とりあえずこの川を『ライル川』としておこう。
後はひたすら捌くのみ。
本来なら鮎は、汚物を押し出して滑りを取れば内臓も食える。ただ、ここは何処かも分からない土地だ。大丈夫だとは思うが、万が一を考えて内臓は処分しよう。
サッと捌いて内臓を取り、勿体無いがペットボトルの水で洗ってから塩を振ってタッパーに納める。それを繰り返し、一杯になったら蓋をして四次元リュックにしまった。
今日食べる分は串を打っておく。
取り出した内臓は、食べ終わった後に出た袋の中に入れてポイントに交換した。
実はゴミも1ptで交換出来たのだ。
日々のゴミ処分に困ってたから大助かり。それにエコだ。
加えてカタログを吟味していた時に、索引が無いかを確認して気付いたのが『交換品一覧表』。
今まで交換して来た物が一覧で記載されており、名称やpt数それに詳細を見る事が出来た。
それに初めて交換する物は『??を交換しますか?』と名称不明だったが、次からは同じ物を交換しようとすると『ライル鮎を交換しますか?』と表示してくれる。これが地味に便利。
お陰で、食べる前に交換した物の名称や食用の可否を正確に知れる様になったのは非常に助かった。
惜しむらくは、ちょっと前に交換したキノコがとても美味だったと後から知った事か…。
「丁度いい、今日は川の近くで野営とするかな」
残り少なくなって来た桃を齧りながら、河原の石で竈を作った。少し早いけど晩飯の準備だ。
さっき釣った鮎を早く食べたい。
集めてあった薪に火を点け、鍋に刻んだ野草と出汁入り味噌、名古屋コーチンを一口大に切って炒め、湯を足して汁を作る。
その火の横で、串に刺した鮎を焼いた。
「う〜〜ん…。今日はこの汁でうどんを食うか。何にしよう?」
鍋を見ながらカタログを広げ、うどんを探すと“ほうとう”が目に入った。
かぼちゃは入って無いけど、これにしよう。
4860ptで“ほうとう”を交換すると、鮑の肝が入った特製味噌、カット野菜、ワイン豚の切り身、生麺のほうとうが入った贅沢な物だった。
はぁ………これがカタログギフトの罠だ。
『ギフト』だけあって、良い品が届くのは大変嬉しい。だが、高価なお陰でポイントが中々貯められ無い。
釣具とキャンプ用品、エア◯ィーヴはオンラインショップで見る価格帯なんだけどな……。
焼けた鮎を齧り、熱々のほうとうを啜る和夫は、以前の記憶を持ってはいたが、欲求に忠実で我慢が利かなくなっている事にはまだ気づいていなかった。
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