第20話

 マリティアが神と呼ばれるようになった所以ゆえんは、彼女が魔法を極めた末に辿り着いた二つの権能にある。


 一つは、堕天した悪魔を眷属として支配下に置き、魔力によって生み出した光の門を通じて、グランネ内であればいつ如何なる場所からでも好きなように召喚することができる権能。

 

 もう一つは、自身の魔力を変質させ、ある時は不可視の障壁に、ある時は不可視の波動になってマリティアを護り、敵を滅する、呪文を必要とせずに魔法じみた力を行使する権能。


 マリティアの権能で、グランネ人が特に恐れたのは前者――召喚の権能だった。

 光の門を発生させるというわずかな魔力で、万の軍勢に匹敵する大悪魔を、万を超える悪魔の軍勢を召喚する権能は、比喩抜きにグランネを滅亡に追い込むことができる。


 そのおぞましい権能も、異世界ラピドゥムでは上手く機能しないらしく、召喚できても数は両手で数えられるほどに少なく、悪魔のくらいも最下級。

 ゆえにオルガルドは、今ならば自分一人の力でもマリティアを滅することができるかもしれないと思っていたが、



「がは……ッ!?」



 不可視の波動によって壁に叩きつけられたオルガルドが、その手に持った剣を取り落としながら、力なく床に倒れ伏す。


『「愚かよのう。眷属をろくに召し出せぬわらわならば、一人でも勝てると思うたか?」』


 波動をくらい、壁に叩きつけられたことで全身の骨にヒビが入っているせいで、身じろぎ程度しか動けないオルガルドに、マリティアは冷笑を浴びせる。


『「して、貴様。今どんな気持ちだ? 妾を殺すために異世界くんだりまでやってきて、ゴミクズのように敗れて、今どんな気持ちだ?」』


 冷笑を深めるマリティアを、オルガルドは睨みつける。

 だが、言葉を発する余力すら残っていないのか、睨みつける以上のことはできなかった。


『「憎そうだな? 妾のことが。だが、ぬるい。ぬるいぬるいぬるいぬるいぬるいぬるいぬるいぬるいぬるいぬるいっ!! 妾が味わった絶望はっ!! 妾が抱いた怒りはっ!! そんな生ぬるいものではないと知――」』


 マリティアの怒号が、不意に途切れる。

 激昂の隙をついた十七夜が、いつの間にか眼前まで迫っていたがゆえに。


 転瞬、


 十七夜が放った掌底が、不可視の障壁によって阻まれる。

 同時に、掌を起点に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、オルガルドはおろか、マリティアさえもわずかに目を見開いた。


 亀裂が消え失せていく中、不可視の波動が十七夜を襲う。

 肌で波動の圧を感じていたという理由もあるが、マリティアから感じた敵意から、不可視の波動が右手側から横殴りに迫っていることを見切った十七夜は、一歩後ろに下がりながら上体を仰け反らせることで回避する。


 不可視ゆえに相手に大袈裟な回避を強要する波動を、最小限の動きだけで回避した。

 その事実に、マリティアの双眸がいよいよもって見開かれる中、十七夜は不可視の障壁目がけて渾身の前蹴りを叩き込む。

 だが、こちらは空間に亀裂を入れるどころか、全くびくともしなかった感触が蹴り足から伝わってきたので、周囲にいたイウウァルトが飛びかかってくるのに合わせてもう一度障壁を蹴り、その反動を利用して飛び下がることでマリティアから間合いを離した。


『「まさか、妾の恩情を無下にした挙句、妾に刃向かってくるとは……死に急ぎたいというであれば手伝ってやろうか? 小娘よ」』

「ご心配なく。死に急ぐ気は全くありませんから」

『「ならば何故なにゆえ、妾に刃向かう?」』

「あなたとラミラちゃんを救うためです」


 迷うことなく断言する十七夜に、マリティアは片眉を上げ、床に伏したまま動けないでいるオルガルドが眉をひそめる。


『「依代を救うという言葉は、まだ理解できる。だが……妾を救うだと? 正気か?」』

「正気も正気ですよ。あなたのことを誰よりも救いたいと願っているのは、あなたの依代になっているラミラちゃんなのですから」


 十七夜の言っていることがますます理解できなかったのか、それとものか、マリティアは口ごもる。


「だから、わたしが今あなたの前に立っているのは、ラミラちゃんを救って、あなたも救うため。ただ、その形がちょっと……いや、だいぶあなたの望まない形になるかもしれませんが……その気持ちに嘘はありません」


 マリティアは、真っ直ぐに十七夜を見つめ、


『「……そのようだな。愚かしいほどに」』


 深々とため息をつき、十七夜に向かって告げる。


『「だからといって、貴様の好きにせよと言えるほど、妾は愚かにはなれぬ。妾を救うという話が、妾の望まぬ形だと言われれば、なおさらにな。もっとも、言わんでもいいことまでバカ正直に話す貴様の真っ直ぐは嫌いではないがな」』


 マリティアの表情がわずかに和らいだ。ような気がした。

 だがそれもほんの一瞬の話で、幻だったのではないかと思えるほどの〝圧〟を、マリティアが放ってくる。

 先程まで十七夜に対しては曖昧だった敵意が、殺意へと変じていく。


『「理由はどうあれ、向かってくるのであれば容赦はせん。依代も妾も救うという信念に殉ずる覚悟があるなら、かかってくるがよい」』

「言われなくても……!」


 応じると同時に床を蹴り、再びマリティアに仕掛けようとしたその時、立ちはだかるようにして三体のイウウァルトが襲いかかってくる。

 十七夜は勢いをそのままに、中央のイウウァルトの鳩尾に掌底を叩き込むも、


(!? この感触は……!)


 体の内側に内臓がないどころか、ただ肉が詰まっているだけの感触が掌底を放った右掌から伝わってきて、思わず顔をしかめてしまう。

 十七夜の掌底は、体の内側にある臓器にダメージを与えることで相手を倒す〝技〟。

 屈強とは程遠い十七夜の打撃力では、肉の塊にすぎないイウウァルトに対しては数歩よろけさせる程度のダメージしか与えることができなかった。


 ならばと、左側から迫るイウウァルトの延髄に手刀を叩き込み、右側から迫るイウウァルトの側頭部にハイキックを叩き込むも致命打には至らず、十七夜はたまらず飛び下がってしまう。


『「ほう……最下級のイウウァルトしか召し出せぬとわかった時は嘆息したものだが、どうやら貴様は、肉体の造りが粗雑なイウウァルトとは相性が悪いようだな」』

「そうみたいですね」


 あっさりと認めたことが意外だったのか、マリティアが少しだけ目を丸くする中、十七夜はさらに飛び下がる。

 床に倒れ伏したまま動けない、オルガルドの傍に。


「これ、借りるね」


 そう言って、返事も待たずに十七夜が床から拾い上げたのは、オルガルドの騎士剣だった。


「ま、待て……! それは我の……!」


 というオルガルドの抗議は無視して、十七夜は再び三体のイウウァルトに肉薄する。

 刹那、閃いた斬撃が三体を袈裟懸けに斬り断ち、断たれた部分の上半分が斜めにずり落ちていく。


『「剣を手にした時はただのハッタリかと思うたが、騎士どもよりも余程良い腕をしているではないか」』


 十七夜のことを褒めながらも、床に具象させた円形の光から、次々とイウウァルトを召喚していく。

 一度に召喚できる数は七体が限界だとマリティアは言っていたが、すでに一〇体を超えるイウウァルトが召喚されていることを鑑みるに、追加で召喚する分には制限がないようだ。

 いくらこのモデルルームが異常に広いとはいっても、これ以上イウウァルトの召喚を許しては、それこそ文字どおりの意味で物量に押し潰されてしまう。


 その前に勝負を決めるべきだと判断した十七夜は、剣を手にしたまま、イウウァルトに護られたマリティア目がけて突撃する。

 呼応するように、前衛となる四体が一斉に飛びかかってくるも、神速で振るわれた剣が幾筋もの軌跡を空間に刻み、次の瞬間にはもう四分五裂したイウウァルトの肉塊が、ボトボトと床に落ちていく。


使ことはわかっていたが……まさか、これほどとは……!」


 後方で、オルガルドが呻くようにして驚く中、十七夜は床を蹴って跳躍し、眼前にいたイウウァルトの肩を足場にしてさらに跳躍する。

 空中で反転することで天井に着地すると、重力に引きずり下ろされる前に天井を蹴り、マリティアを護る障壁目がけて特攻の刺突を繰り出した。


 ビシィ――ッ!!と音を立て、かつてないほどに大きな亀裂が空間に走るも、


(これでもダメなのっ!?)


 障壁を突破するには至らず、心の内で悲鳴を上げてしまう。


『「悪くない一撃だと言いたいところだが――」』


 マリティアと目が合った瞬間、十七夜の背筋に氷塊が伝う。


 くる――と思うよりも先に、障壁に阻まれ、静止した剣でゼロ距離の刺突を繰り出す。

 さらに空間の亀裂が拡がったものの、剣そのものはびくとも動いておらず、だからこそ余すことなく十七夜に跳ね返った反動が、彼女の体を後方へと押し出――


「ぐ……っ!!」


 ――す最中さなかに、不可視の波動が十七夜を吹き飛ばす。

 全身が軋みを上げるほどの激烈な圧力に耐えながら、十七夜は体を反転させて、叩きつけられることなく両の脚で壁に着地する。

 だが、それによって両脚にかかった負荷と、波動の圧力によって肋骨にヒビが入った激痛のせいで重力の魔の手から逃れ損ねてしまい、受け身もとれずに床に落ちてしまう。


「カナっ!」


 春月が悲鳴じみた声で名前を呼ぶ中、マリティアは新たに七体のイウウァルトを召喚しながら、先の言葉の言葉の続きを口にした。


『「中空から仕掛けたのは失敗であったな。いくら貴様でも、足場がなければかわしようがあるまい」』

「……ですね」


 苦痛の滲んだ声音で非を認めながらも、十七夜は立ち上がり、剣を構える。


『「戦意にいささかの陰りもなし、か。まあ、。その程度の手傷で折れるとは、よもや思うまい」』


 そんなマリティアの言葉を、十七夜は意外に思う。

 マリティアを傷つけることはラミラを傷つけることと同義なので、当然と言えば当然の話だが、十七夜は刺突を繰り出した際、仮に障壁を突き破ることができたとしても、決してマリティアには当たらないようにしていた。

 立ち振る舞いからして、マリティアが武道の類を嗜んでいるようには見えない。

 それでもなお刺突の軌道を見切ることができたのは、マリティアがこちらのことをよくていたからに他ならない。


(マリティア……ううん、マリティアさんからは、今もなお殺意を感じる。けど、オルガルドさんたちに向けていたものに比べたら、申し訳程度にしか感じない)


 異世界人に興味があるのか。

 それとも、復讐の相手はあくまでもグランネという世界であって、それ以外には極力危害を加えないようにしているのか。

 いずれにせよ、マリティアから感じる殺意からは、「まだ向かってくるのあれば容赦しないが、退くのであれば見逃してやる」という傲慢な甘さが見え隠れしていた。

 彼女の言葉を借りれば、「ぬるい」と言わざるを得ない甘さだった

 事実マリティアは、いくらでも追加でイウウァルトを召喚できる猶予があったにもかかわらず、護りを堅め直すために一度召喚するだけに留めている。

 本気でこちらのことを殺すつもりならば、それこそこの場にいる全員を押し潰す数を召喚していたはずだ。


(もしかしたら、甘さそこが付け入る隙になるかも)


 実のところ十七夜は、マリティアの障壁を突破する手段を見出していた。

 しかしそれを実行に移すには、イウウァルトの存在が邪魔になる。

 成功率を上げるためにも、障壁を突破すること一点に集中したい――そう思った十七夜は、褒められたやり方ではないことを承知した上で、マリティアの甘さに付け込む決心をする。


「マリティアさん。あなたの言うとおり、わたしはあなたとラミラちゃんを救うまで、折れるつもりはありません」

『「それで死ぬことになってもか?――と訊ねること自体、愚問か」』


 こちらの表情から察したのか、呆れたように言うマリティアに、十七夜は首肯を返す。


「ですが、あなたとラミラちゃんを救えなければ、命を賭けたところで何の意味もないとも思っています。だから……」


 十七夜は剣を持たない手でマリティアを指差し、断言する。


「次の一撃で勝負を決めるというのはどうです? わたしがあなたの障壁を破ることができたら勝ち。できなかったら負けという形」

『「うそぶきおったな? いいだろう、付き合ってやろう」』


 そう言ってマリティアは、十七夜に向かって指を差し返す。


「但し、妾の障壁を破れなかった場合は、今貴様が言ったとおりに負けを認め、引き下がってもらうぞ。よもや『勝負を決める』とほざいておきながら、〝次〟があるとは思っておらぬだろう?」』

「もちろんです」


 答えながらも、狙いどおりに事が運んだことに内心胸を撫で下ろす。

 同時に、確信する。

 やはりマリティアは、復讐さえ絡まなければ、無益な殺生を好まない性分であることを。

 理由をつけてこちらのことを引き下がらせようとしているのが、良い証拠だ。


 その甘さに付け込むことで、ていよく次の一撃を流れに持ち込めた。

 決められなかった場合は負けを認めて引き下がる条件をつけられてしまったが、どのみち次の一撃が通じなかった場合は十七夜に障壁を突破するすべは残されていないので、認める認めないにかかわらずこちらの負けは確定する。

 ゆえに今の流れは、十七夜の望んだとおりの展開だったが、


(これじゃ、どっちが〝よこしま〟かわかったものじゃないよね……)


 邪神と呼ばれているマリティアよりもやり口が〝邪〟な自分に、ちょっとだけ自己嫌悪する十七夜だった。

 だが自己嫌悪それも、ラミラを、マリティアを救うためならば甘んじて受け入れるのみ――そう自分に言い聞かせながら、左手を前方に伸ばし、半身になりながらも剣を握る右手を弓矢を引き絞るようにして後ろに下げる。

 同じようにして下げた右脚に、力を込めた刹那――


 十七夜は床を蹴り、マリティア目がけて突貫。

 勢いをそのままに、渾身の刺突を繰り出した。


 音を置き去りにするほどの速さで繰り出した刺突が、不可視の障壁と激突する。が、結果は先と同じ。

 何もない空間に蜘蛛の巣状の亀裂が入るだけで、切っ先がそれ以上先に進むことはなかった。


『「大言の割りには、随分と芸のない一撃だったな」』


 つまらなさげに言うマリティアに対し、


「ごめんなさい」


 十七夜は謝りながら、剣の柄から手を離す。


 剣が床に落ちていく中、


「本当は『次の一撃』じゃなくて――」


 右手と右脚を後ろに引き――


「『次の』です!」


 渾身を超えた魂身こんしんの掌底を、いまだ亀裂が残る空間目がけて叩き込んだ。


 直後、掌底を叩き込まれた箇所を中心に、ピシピシと音を当てて亀裂が拡がっていく。


 そして、


 窓ガラスが割れるようなけたたましい音とともに、マリティアの眼前の空間が――不可視の障壁が粉々に砕け散った。



 ◇ ◇ ◇



 マリティアの障壁は、たとえ亀裂が入るほどの攻撃を受けたとしても、ものの数秒で修復する特性を有している。

 しかし、亀裂が修復される前にさらに攻撃をくらうと、その威力如何いかんによっては、さらに亀裂が拡がるという欠点も有していた。


 普通の結界魔法の場合、亀裂が入ったらそもそも修復自体ができず、結界を張り直すしかないため、それ自体欠点と呼べるほどのものではないことはさておき。

 十七夜が空中から刺突を仕掛けた際、不可視の波動から逃れるためにゼロ距離の刺突を繰り出し、修復される前の亀裂がさらに拡がったことを彼女は見逃さなかった。


 渾身の刺突で障壁に亀裂をつくり、脆くなったところに魂身の掌底を叩き込む――それこそがマリティアの障壁を破る、十七夜の『次の二撃』だった。


(まさか、本当に妾の障壁を破るとは……!)


 さしものマリティアも内心驚愕しながら、半ば反射的に不可視の波動で反撃しようとする。

 

 だが、


(間に合わぬ……か)


 十七夜は、すでにもう眼前まで迫っていた。

 波動には、マリティアを中心にして放射するタイプと、波動の塊をつくって相手にぶつけるタイプの二種類あるが、いずれも発動にはコンマ数秒の〝溜め〟を必要とする。

 レグヌムの騎士風情ならともかく、相手が異世界でもトップクラスの〝ぼでぃがーど〟の場合、コンマ数秒もかかる〝溜め〟は遅すぎると言わざるを得なかった。


 そもそもこの勝負自体、障壁を破るか否かで決めるもの。

 明言したわけではないが、破れなかった場合は十七夜に負けを認めるように言った自分が、破られたにもかかわらず反撃に出ようとするのは筋が通らない。


 いったいこの小娘が、どうやって自分と依代を救うつもりなのか皆目見当もつかないが、何をされても甘んじて受け入れるのが筋だろう――そう思ったマリティアが、波動の発動を中断したその時、


「――なっ!?」


 不覚にも、狼狽の声を上げてしまう。


 十七夜が、こちらのことを抱き締めてきたのだ。

 家族や友人にするように、親愛と慈しみをもって抱き締めてきたのだ。


 この行為に、いったい何の意味があるのかはわからない。


(……いや)


 わかる。

 この行為に、意味など必要ないことがわかる。

 それほどまでに十七夜の抱擁は温かかった。

 体はおろか、復讐で荒んだ心さえも温もりを覚えるほどに。



 ――つかまえた。



 背後からさらに、誰かが抱きついてきた。ような気がした。

 振り返り、視線を落とすと、そこには依代――ラミラが、背後からこちらに抱きついていた。

 マリティアがラミラの身体を乗っ取っている以上、抱擁これは現実に起きた出来事ではない。

 けれど、確かに、あるはずがない温もりを背中から感じる。



 ――神様……あのね……。



 こちらに抱きついたまま、ラミラがおずおずと言ってくる。



 ――ラミラ……神様と、お友達になりたい……デス。



 言っている言葉の意味がわからなかった。


 ……いや。


 これもわかっている。

 ただ、忘れていただけだ。

 愛した夫を殺され、一族郎党までもが殺され、世界に復讐すると決めたその時から忘れてしまった、ごくごく当たり前の、友愛の感情。


 それを思い出した瞬間、今の今まで復讐を理由に考えないようにしていた罪悪感が、心の底の底から滲み出てくる。

 復讐ために、何の罪もない子供を依代として犠牲にするのを良しとしてきたことに対する、罪悪感が。


(何を今さら……!)


 心の内で吐き捨てるも、ほんのわずかでも、ほんの一瞬でも湧いた罪悪感が、憑依転生魔法によって同化していたマリティアの魂とラミラの身体の繋がりに、綻びを生じさせてしまう。


 そしてその綻びを、ラミラの乳母である〝彼女〟は見逃さなかった。


「【ポッセシオネム シジルム リシル メタスタシス】……!」


〝彼女〟――エルーザが、這うような体勢で呪文を唱えた直後、


 マリティアは、自分の魂が、ラミラの身体が引き剥がされていくのを感じた。

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