まるちゃんと
高坂 美月
第1話
わたしはマルチーズの女の子。
ペットショップで若い女のひとと出会って、女のひとの家で暮らすことになる。
「まる」という素敵な名前をプレゼントしてもらった。
これから女のひととどんな楽しい生活が待っているか、わくわくしている。
とはいっても慣れない場所での生活なので、不安や緊張もあった。
いたずらしたり、甘噛みしたり、トイレを失敗したりすると、
「もう、まるちゃん! いい加減にして!」
って女のひとから怒られることもある。
それでもおすわり・待て・お手・おかわりなどを女のひとに教えてもらい、褒めてもらえると嬉しかった。
わたしにもできることが増えていったのだ。
わたしは病院に連れて行かれ、大嫌いな注射を我慢した。
そうしたら女のひとからお散歩に連れて行ってもらえるようになる。
お散歩では世界が広がっていくような感じがした。
大きなお友達に圧倒されることもあったけれど、わたしはお散歩が大好きになった。
女のひとが職場でもらってきたという、海外のチョコレートが目につく。
わたしはそのチョコレートをパクッと食べた。
甘くておいしかったけれど、次第に具合が悪くなっていく。
このまま死んでしまうのだろうかと思っていた。
女のひとが職場から帰ってくるなり、ぐったりしたわたしを見つけて病院に連れて行かれる。
「海外製のチョコレートを食べて具合が悪くなったということですね?」
獣医さんの問いかけに、女のひとは
「はい。私が同僚にもらったお土産のチョコを食べたら具合悪くなったみたいで……この子バカだからなんでも口に入れちゃうんです」
と答えていた。すると獣医さんはこう返す。
「失礼を承知で申し上げますが、あなたの不注意で起きたことです。口に入れられて困るようなものはワンちゃんの手に届く場所に置かないでください。今回は食べてそんなに時間も経っていないので症状は軽いですが、時間が経つと最悪、死に至る可能性もあります」
チョコレートを食べてからそんなに時間は経っていなかったので、治療を受けたら元気になった。
病院から帰ってきて、女のひとはわたしをぎゅっと抱きしめる。
「まるちゃん、ごめんね。私のせいでこんなことになって……。これからは気をつけるから……。一緒に楽しく過ごそうね」
そう話す女のひとの目からは涙が流れていた。
わたしは大丈夫。だからもう泣かないで。
わたしはそう思い、女のひとの顔を舐める。
まるちゃんと 高坂 美月 @a-tmm1209
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