第4話 結局追放!勇者ラグナ!
「――と、いう訳でごぜえます」
ガンバーランド王宮
セバスチャンが
列席する王国の重鎮たちは皆、二人の話に困惑している様子で、謁見室をしばしのどよめきが包んだ。
咳払いでどよめきを制し、国王はラグナに静かに語り掛けた。
「ラグナよ。今の話に偽りはないな?」
「俺だってチクリ魔みてえな真似はしたくなかったけどよ。今の話は本当だ」
「……彼を覚えておるか?」
国王は自身の斜め前に控える壮年の男を指し示した。
七三分けに眼鏡のいかにも真面目で神経質そうな男だ。
「財務大臣のアーネストじゃ」
「は?」
「どーも勇者殿。ガンバーランド財務大臣アーネストです。先月マンティコア退治の討伐報告にご同席して以来ですかな」
アーネストと呼ばれた男は
ん? そういえばこいつ、見覚えがあるような……ラグナはアーネストを見つめながら記憶を手繰ろうとする。
国王はしばし嘆息し、言った。
「お主がハナタレの小僧の頃からガンバーランドの財務大臣は彼一人じゃ。ズッチーナなどという大臣は我が国にはおらん」
「ああ、そういう事か。ズッチーナなんて奴はいないのねじゃああいつ何者なんだろうね謎だね道理でおかしいと思っ……はあああ!?」
ラグナは目を見開いて絶叫した。
裏返った声が謁見の間中に響く中、ようやく自分がズッチーナと名乗る何者かに騙されていた事に気が付いたのだった。
「今さら騙されとった事に気付きおったか、このバカもんが。大賢者様が大金を要求しとるなどとほざきおって、なんたる礼儀知らずじゃ」
「私が勇者殿の記憶に残れぬほど印象の薄い男で申し訳ありませんでしたな!」
国王の
ガンバーランド王国財務大臣一筋十余年。
王国の金庫番と自負する男の、精一杯の皮肉である。
勇者ラグナのモンスター討伐報告に同席したのは一度や二度ではない。毎度だ。
とは言え、討伐報告の場には王国の重鎮たちが同席する事が多いとしても、ラグナのような適当な男がいちいち列席者の顔を覚えていられようか。
アーネスト大臣の存在感の無さと勇者の記憶力の無さ、双方の『無さ』が引き起こした、不幸なボタンの掛け違いであった。
「んな事言ったってよ……あいつの口がうめえもんだから……」
「しょうがねえっすよ。勇者の旦那は単純すもん。悪いのはズッチーナっすよ。王様、旦那は騙されてただけなんす! どうか寛大なご処置をお願いっす!」
「普通騙されてるなんて思わねえじゃん。第一、俺を騙して何の得があんだよ」
「――そのズッチーナと申す者については追って対処する。勇者ラグナよ、改めてお主の処分を言い渡す」
国王は居ずまいを正し、しばしの沈黙を置いて宣告した。
「ドラゴン討伐の報酬として、金5万ゴールドを勇者ラグナ・ロックに
「おおっ!」
「加えて国外追放の刑に処す」
「はあ!?」
「明日の日没までに王都ガンバラを去れ」
「ちょ、ちょ待てよ」
「王都退去後、ガンバーランド王国領土内からの退去の刻限は五日間とする。以上反論は認めん! 金を受け取ったらとっとと王都を去れい!」
「ジジイてめーコラ! 大体一人でドラゴン退治したからって何が悪いんだよ!」
「ええい口ごたえするでない! お主のそういう
「――陛下、そこまで」
ぴしゃり、といった様子で国王の言葉を賢者ミスランが制止した。
王は思わず口を滑らしそうになった自分に気付き、面目なさそうな表情で賢者ミスランを見上げる。
賢者はこの先は自分が預かると視線で王に伝え、勇者に向き直った。
「いい加減にしろよオイ! 何で俺が追放になんなきゃなんねえんだよ! 村がどうとか何の話――」
「
「は、反逆だと……!」
反逆とまで言及した賢者ミスランの口調には違和感がある。
是が非でも村の事に触れられたくないのだろうか。
「だ、旦那ぁ~反逆罪はまずいっすよ旦那ぁ~」
セバスチャンがラグナの袖を引きながら泣きそうな顔で訴えかけてくる。
いつもはピンと立っている狐耳がしおれきっていた。
まるで怒りの収まらぬラグナであったが、気の毒なほど狼狽している従者を見ると、これ以上この場での抗弁は無理だと思わざるを得ない。
「……何だってんだよクソッたれ! いくぞセバスチャン!」
そう吐き捨てるとラグナはさっと
賢者ミスランは視線を落とし、軽く息を吐いた。
先ほどまでラグナがいた空間にはまだ怒気がわだかまっているように感じられる。
しばらくの沈黙の後、肩を落としてうなだれる国王に向けて語り掛けた。
「お辛い役目でしたな。陛下」
「……ガンバーランドの為であれば、仕方ありますまい」
「左様ですな……ミレー村の件、私からうまく勇者殿にお伝えいたします。ご心配なく」
肩を落とし、溜息をつくガンバッティウス6世王の肩に手を添えながら、ミスランは言葉を続ける。
「ズッチーナと名乗る輩の正体も突き止めて見せます。後は万事お任せください。」
「賢者様、お力添えかたじけない。くれぐれもお頼み申す」
「無論です。王国の未来は王子と勇者殿の双肩にかかっております故」
勇者の去った謁見の間の出入り口を見やりながら、ミスランが言った。
そしてこれは追放であると同時に、勇者が真の勇者になるための新たな旅立ちであると確信があった。
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