第2話 追放!勇者ラグナ・ロック!


「勇者ラグナ・ロックを国外追放の刑に処す」


 王宮謁見えっけんの間にて国王ガンバッティウス6世の口から発せられた言葉に、ラグナは耳を疑った。

 しん、と静まり返った謁見の間にて玉座の脇にずらりと控える大臣・騎士団長・宮廷魔術師・貴族等お歴々から向けられる自身への視線の冷たさが、この発言がただの冗談ではないことを物語っている。

 沈黙をラグナの怒声が破った。


「ジ、ジジイちょっと待てどういう事だ! 何で俺が追放になるんだよ! 俺は竜殺しドラゴンスレイヤーだぞ! ついにボケやがったかこの野郎! このボケジジイ!」


 ボケジジイと罵倒された国王ガンバッティウスは丸々肥えた体と豊かな白髭を蓄えた、孫にめっぽう甘い好々爺こうこうやである。

 ただしラグナに対してはそうではない。眉を怒らせどなり返した。


「誰がボケジジイじゃこの無礼者! お主はいい加減に礼儀を学ばんか!追放と言ったら追放じゃこのたわけが!」

「誰がたわけだこのくそジジイ! 俺がドラゴン倒すのにどれだけ苦労したと思ってんだ!」


 ラグナと国王の付き合いはかれこれ3年になろうとしてるのだが、性分が合うのか合わないのか、顔を合わせると大抵こんな調子である。


「王様お待ちください! どうして旦那が追放になるんですか? ドラゴン退治した見返りが追放ってのはあんまりでございますよ!」


 国王とラグナの罵り合いに、勇者の後ろに控えるセバスチャンが慌てて割って入る。

 その瞳には困惑と戸惑いの色が浮かんでいた。

 狐少年の様子を見て取り、国王は呼吸を落ち着かせラグナとセバスチャンの二人に語り掛ける。


「ラグナよ。ドラゴン目撃の報を受けた際、お主に命じた事を覚えておるか?」

「は?」

「大賢者様と騎士団、双方によく申し合わせて共に事に当たれと命じたであろう。決して独断専行するでないと申し伝えたはずじゃ。忘れたとは言わせんぞ」


「そ、そりゃ忘れちゃいねえけどよ……」

「はいじゃあ追放。わしの言う事聞かんかったから追放」


「横暴すぎるだろバカジジイ! これにはワケがあんだよ!」

「勇者殿、ワケとはなんだ。申してみよ」


 王の傍に控える大賢者が割り入ってきた。

 大賢者ミスラン。黒髪をビシッとオールバックに固めているその容貌は五十歳過ぎのナイスミドルに見えるが、実年齢は恐らくもっと上であろう。

 猛禽類を思わせる鋭いまなざしでラグナの両の眼を睨みつけている。


 地上に恐れるものなど何もないと自負する勇者ラグナであるが、心のうちを見透かされるような気がして以前からこの大賢者だけはどうにも得意ではない。

 が、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 命令違反ごときで追放などされてたまるかとばかりにラグナは声を荒げた。


「お前のせいだろうが!」

「私のせいだと……? 勇者殿どういう事だ」


 ラグナを見つめる賢者の視線に、怪訝の色が混じる。

 勇者ラグナは思慮の浅い愚か者ではあるが、責任を他人になすり付けるような性根の者ではないはずだ。


「お前が金に汚いからだっつーの! 俺は知ってんだっつーの!」

「金だと? 勇者殿心外だぞ」

「おい待たんかラグナ。大賢者様が金に汚いとはどういう事じゃ」

「大臣がそう言ってたんだよ」

「大臣じゃと? どういう事じゃ?」


 国王が身を乗り出して話に入ってくる。

 その様子を見て取り、セバスチャンも説明に加わり詳しい経緯を語りだす。


「へえ。ドラゴンが目覚めたって知らされた日の晩に、口髭をこう……左右にピーンと伸ばした方が、私らが泊まる宿にいらしたんでさあ」

「口髭ピーン大臣じゃと? きつねっ子よ、詳しく話してみよ」

「へえ、その方が仰るには王国の財政が――」

  

 竜殺しドラゴンスレイヤーの勇者ラグナ・ロックがなぜ追放されるに至ったか。

 その謎を解くカギはこれからラグナとセバスチャンによって語られる事実の中にある。


 そしてそれはまた、王国の存在を揺るがす危機の訪れを告げる前兆でもあった。


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