第21話.聖女はまだ塩対応するの
「ローランドが、お前を聖女登録ができた方法が分かった」
「……どうやって」
イヴァンの背に揺られていた時に聞こえてきた会話は夢じゃなかった。この話の切り出し方だと、あまり賛同はしていないみたい。
「聖女証明は本人が教会で貰ってくるが、未発行だから支部で発行できた。お前の指紋認証だ」
「は?」
「お前が使った食器から指紋を採取して、認定書を貰ったと」
それって犯罪の手口!! 高度過ぎる!
「ローランドはもともと組織にいた、そのぐらいはできる」
「ちょッとまって! ローランドは光の聖騎士団長だよね!?」
驚いてアリスは立ち上がり、イヴァンにの方へと詰め寄る。清廉潔白な白金の騎士団、そのローランドが? するとイヴァンが驚く。
「何で異世界のお前が知っている。いや……聖女だから当たり前か。たまにお前は足りないのかと思うが、実は賢いのか」
「少なくとも馬鹿じゃないよ! 馬鹿にすんなっ」
「――声を潜めろ。聞こえる」
「……」
「光の王国、スペアは裏の顔がある。暗殺者を多く雇う闇の大国であり、聖騎士団も表の顔は光り輝く白き騎士団、裏の顔は暗殺集団だ」
「……あなたは? あなたがそうだと思っていた」
イヴァンは月明かりに照らされて、アリスの声に固まりそれからうなだれた。
「聖女にはすべてがお見通しだな」
「そんなこと……」
「俺は……同じく聖騎士団だが、裏の顔の暗殺騎士団の隊長だった」
「同じ、騎士団なの?」
あ、これはゲームの設定と同じだ。
「同じと言ってもやってることは真反対だ。正義のために闘うローランドと、裏仕事を行う俺とじゃ立場が違いすぎる」
ちょっと踏み込んでしまった。ここでイヴァンの鬱屈というか闇が見え始めた。
「それで、ローランドが私の指紋を取れたのは、仕事がら簡単だったってことだよね」
話を無理やりもとに戻してアリスが言うと、しばらくの間の後、イヴァンが頷く。まだ頭はうなだれたままだった。その話を続けさせたらよかったのかな?
「それで、どうだっていうの? ローランドには気を付けろって?」
「そうだ」
実はローランドの方が邪悪ということだろうか?
アリスは考える。どっちみち誰かに利用されるのは変わらない。そうなると誰が一番大切にしてくれるかってことだろう。
「レジナルドとは知り合いみたいだったけど? 彼は信頼できるの?」
イヴァンが一番信頼できないかもしれない。そもそも、二人キリにされているけど、彼がアリスを洗脳するって他のみんなは考えないのだろうか?
「――国民のことを一番に考えていた。信頼できると考えている」
「そう」
どうすればいけないのか、悠長に考えると言えなくなってきた。
「ねえ、そういえば名前は呼んでくれないの?」
結局“お前”呼ばわりだ。
「俺を、聖女の騎士にすれば、呼んでやる」
そうだ、偉そうだから嫌なのだ。だいたい、イヴァンは裏切る。その時置いて行かれるか魔王軍に連れて行かれるか。
「お前が、“守って”と最初に言っただろう?」
「それはそうだけど……」
偉そうなのに、こんなに迫られると裏を考えちゃう。というか、裏があるんだろうけど、ゲームの世界だから抗えない気もしてきた。
「決めろ、もう時間がない」
「なぜ?」
黙りこむイヴァン。ベッドの端に腰を掛ける彼はイケメンだ。
月明かりがスポットライトの照らす半裸は美しい。女性と正反対だけど、逞しい腕の上腕三頭筋、お腹はシックスパック、乗り上げられたとき熱量にドキドキした。なんだかんだと背負ってくれるし、助けてもくれる。見捨てないというのであれば任せてもいいかもしれない。
「魔物が強大になれば、守りきれなくなる」
「アリスと、読んでみて」
彼は黙った後、静かに呼んだ」
「――アリス」
その声は優しく穏やかだった。
「まだ決めない」
アリスは彼に背を向けてベッドに横になった。別に勿体つけたわけじゃない。ただ、頷くにはまだ早すぎる。
イヴァンが立ち上がり背後に立つ、そしてアリスに手を差し伸べる。そこには襲おうという気配はなかった。ただ伸ばした手で、そっと頭に手を触れて、そして離れていった。
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