第14話.聖女は獲得を危ぶむの

「――反対」


 ヒューが頬杖をつき、片手をあげる。その顔の下の大皿を見てアリスは顔を強張らせた。骨だけが重ねられていて綺麗だけど。


 ――ポッポー、コイツ全部食べた。アリスが一本しか食べてないのに。


 恨めし気に睨んでいたら、勘違いしたのか、「んだよ、俺だって次期王だぞ」とか言い出した。何それ……。


「レジーが王様だからってデレデレすんな。俺だって領地はちょっと狭いが……将来有望なんだぞ」

「ヒューはツンデレだからアリスに嫌われちゃうんだよ」


 ヴィオラが言い出した。何それ……。ツンデレって、こいつのデレは見たことがない。嫌いは嫌いだ。


「俺だって聖女獲得の――」

「ヒュー、黙れ」


 ローランが静かに声を発する。彼がこんな風に命令口調で仲間を黙らせたことはない、皆が静まり返る。


 かわりにアリスが尋ねる。


「獲得、って何?」


 ずっと前からおかしかった。聖女は重視されていて、いないと魔王討伐パーティの代表になれない切符のようなもの。でも、王女であるグレースの態度の変化や、小ばかにしていたヒューが自分を欲しがるような態度も変。


「――聖女のパーティが魔王討伐に必要というのは説明したが――」

「それは聞いた。けどグレース達に態度を改められるのがわからない。レジナルドさんのいうパーティの正式認定も」


 王様だから“さん”は、どうかと思ったけど、国民ではないし。


「うすうす気づいているのじゃないかな、アリス」


 レジナルドこそリーダーのようだった。ワンファンⅡでは主人公の勇者の参謀だった彼は、主人公より賢く、一番人気だった。このメンバーの中ではどんなふうになるんだろう。


「まず聖女とされた君は、この世界のどの王族よりも尊い存在になる。俺よりもね」


 アリスは顔を強ばらせながらレジナルドを見つめ返す。他のメンバーは見られなかった。王女よりも、尊いと言われても気まずい。


 皆、納得しているのだろうか。どんな表情をしているのだろう。


「そして、聖女を得た者は――魔王を倒す聖なる強大な力を与えられる」

「……」


 は、と言いかける“私を得た者”、ってなに? 相手のものになること? 恋人? 結婚?


「得るって……その定義って?」

「え、えとああ」


 珍しく(ゲームの中では見られなかった)レジナルドが言いよどむ。


「それより、その強大な力をお前が与えられるかどうかを気にしろよ。お前は回復魔法一つさえ――」


 ヴィオラがヒューの口を覆う。

 レジナルドが顔を曇らせ息をつく、こんな時でも美形。金のまつ毛は憂いで揺れている。


「それは、誰にもわからない。悪いね、君にこんな話は不愉快だろう」

「……ええ」


 だからヒューの態度が変わったの? そう言いかけてヒューを睨んだら、ヴィオラの手を外した彼は、未練がましく彼女の手を握っている。なんだよ、やっぱりいちゃいちゃしてんじゃん。


 でも、そんな強大な力を得るより好きな子より選んじゃうもの? 私のすきだったゲームの中のヒューは、そんなキャラではなかった。恋愛経験はほぼない、この世界は美形が多い。彼らから欲しいと言われても、聖女が欲しいだけ。

 自分じゃない。だから心も弾まない。そうですか、という感じ。

 

 アリスは、ふと視線を感じ目の前のイヴァンを見つめた。彼はアリスをじっと見ている。自分を守る、そう言っていた彼の思惑は聖女を得ること。彼が得たいのはアリスではなく強大な力。

 そう考えると、裏切る彼の性格だ、アリスに近づくのはわかる。ふいって彼の視線から顔をそらす。――わざとそうした。


「――じゃあ聖女のパーティ登録、ってなんですか?」


 アリスは、一応リーダーのローランドに尋ねる。彼を差し置いている気がしてならない。


「本人が神殿に出向いて、するものだ。アリス君がいなかったから、できなかった」

「……」

「もしよかったら……俺達と神殿に行ってほしい」


 ずっとこれまで強引だと思っていた。言葉上の約束じゃない、そこで登録しないといけないんだ。でもしなかったら闘いにでなくてもいい?


「しなかったら、闘いにでなくていい?」

「いや……必ず戦場に駆り出される。聖女は魔王討伐には必要だから」


 ローランの言葉はどこまで信ぴょう性があるのだろう。そう思うけど、レジナルドが否定しないから当たっているのかもしれない。


(他のパーティにはもっと大事に扱ってくれる人達もいる?)


 それもわからない。今は役立たずと言われているけれど、それほどひどい扱いでもない。もっとひどいところもあるだろうし、ローランド達の本性もまだわからない。


「神殿は他にもあるの? もう少し、様子見はできるの?」

「んなことしてたら、他のやつらに!」


 激高してヒューが手のひらを机にたたきつける。ヴィオラに睨まれて黙る彼。他の奴ら、つまり聖女はそんなに欲しいみたい。


「一度登録したら移動はできる?」

「できない」


 アリスは考えて頷いた。


「なら、もう少し考える」


 皆が気落ちした雰囲気がある。なんでこの人達はそんなに戦いたいのだろう。ゲームの時は気にもしなかった。


「大事な問題だ、自分が命を預けるパーティだ。どう扱われるか様子を見て、ゆっくり考えればいい」


 レジナルドだけが背中をポンと叩く。確かにそうだ。


「で、アリスのことは本人の意思に任せるとして。俺はこのパーティにいれてくれるかい?」


 少し皆が視線を合わせる。考えるということは、凄く反対でもなさそう。


「――君の強さと、頭脳、そして性格はよく知っている。歓迎するよ」


 ローランドが言ってレジナルドの仲間入りが決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る