「それで、凛玲は今どこにいるの?」

「他の皇妃様のところだと思います、凛玲は優秀な女官なので、受け入れ先は多いでしょうから」

「誰のところかは、わからないの?」

「そこまでは知りません、移動のことも直接本人に聞いたわけではありませんし、私も凛玲と会っていなくて……」


 翠玉は先ほど羽織った寝巻きを脱ぐと、衣装の入った棚のそばまで歩いた。


「……翠風様?」

「凛玲を探しに行くわ」

「えっ? わざわざですか? なにか用事があるなら、私が行ってまいりますが」

「いいえ、私が行かなきゃならないの」

「それならせめてなにか食事を取られてから……もうお昼前ですし」


 なんと、もう昼前とは、どうりで身体が楽なはずだと、翠玉は思った。

 同時に、大事な友が動いている時に、なんとのんきなことか、とも。

 

「大丈夫よ、急ぎだから、今すぐ支度して、枕里の料理は、その後の楽しみにしておくわ」

「は、はい、承知いたしました!」


 枕里はピシッと背筋を伸ばした後、翠玉の身なりをテキパキと整える。

 白い百合が咲いた若草色の衣に、暁嵐からもらった首飾りをつけ、翠玉は屋敷を出た。

 そして衣の裾を両手で摘むと、石畳みの道を走り出す。

 ギョッとした枕里は、慌てて翠玉の後を追いかけるが、あっという間に距離ができてしまう。

 

「ま、待ってください、翠風様、ほ、本当に足がお速くて、つ、ついていけませんん!」

「ついてこなくて大丈夫よ、あなたはゆっくりしておいて!」

「え、ええー……!?」


 足がもつれて転びそうになった枕里は、翠玉の追跡をあえなく断念する。

 息をきらす枕里の目には、どんどん小さくなってゆく翠玉の後ろ姿。

 そんな様子を見た通りすがりの皇妃や女官たちは、丸くした目をパチパチさせている。

 無理もない。優雅な衣を持ち上げ足を出し、宮中を駆け回る皇妃など、今までいなかったのだから。

 今まで散々目立っているのだから、大した遠慮もせず、かなりの速さで移動する。

 さすがに屋根や塀を上るのはまずいので、あくまで平地から凛玲を探す。

 やがて、旺玖院との境になる扉が見えてくる。

 そしてその端の方に、見慣れた姿を見つけた。

 石畳みの通路の脇、砂地の空いた場所で、洗濯物を干している人物。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る