三
「それで、凛玲は今どこにいるの?」
「他の皇妃様のところだと思います、凛玲は優秀な女官なので、受け入れ先は多いでしょうから」
「誰のところかは、わからないの?」
「そこまでは知りません、移動のことも直接本人に聞いたわけではありませんし、私も凛玲と会っていなくて……」
翠玉は先ほど羽織った寝巻きを脱ぐと、衣装の入った棚のそばまで歩いた。
「……翠風様?」
「凛玲を探しに行くわ」
「えっ? わざわざですか? なにか用事があるなら、私が行ってまいりますが」
「いいえ、私が行かなきゃならないの」
「それならせめてなにか食事を取られてから……もうお昼前ですし」
なんと、もう昼前とは、どうりで身体が楽なはずだと、翠玉は思った。
同時に、大事な友が動いている時に、なんとのんきなことか、とも。
「大丈夫よ、急ぎだから、今すぐ支度して、枕里の料理は、その後の楽しみにしておくわ」
「は、はい、承知いたしました!」
枕里はピシッと背筋を伸ばした後、翠玉の身なりをテキパキと整える。
白い百合が咲いた若草色の衣に、暁嵐からもらった首飾りをつけ、翠玉は屋敷を出た。
そして衣の裾を両手で摘むと、石畳みの道を走り出す。
ギョッとした枕里は、慌てて翠玉の後を追いかけるが、あっという間に距離ができてしまう。
「ま、待ってください、翠風様、ほ、本当に足がお速くて、つ、ついていけませんん!」
「ついてこなくて大丈夫よ、あなたはゆっくりしておいて!」
「え、ええー……!?」
足がもつれて転びそうになった枕里は、翠玉の追跡をあえなく断念する。
息をきらす枕里の目には、どんどん小さくなってゆく翠玉の後ろ姿。
そんな様子を見た通りすがりの皇妃や女官たちは、丸くした目をパチパチさせている。
無理もない。優雅な衣を持ち上げ足を出し、宮中を駆け回る皇妃など、今までいなかったのだから。
今まで散々目立っているのだから、大した遠慮もせず、かなりの速さで移動する。
さすがに屋根や塀を上るのはまずいので、あくまで平地から凛玲を探す。
やがて、旺玖院との境になる扉が見えてくる。
そしてその端の方に、見慣れた姿を見つけた。
石畳みの通路の脇、砂地の空いた場所で、洗濯物を干している人物。
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