その後、しばらくして翠玉が再び目を覚ます。

 ずいぶん寝たような気がした翠玉は、ようやく上体を起こすと、ポリポリと頭を掻いた。


「お目覚めですか、翠風様」

「うん……おはよ――」


 翠玉が声のする方を向くと、深緑の帳越しに人影が見えた。

 しかし、翠玉はすぐに異変に気づく。

 その人影が、見慣れた形ではなかったからだ。

 外にいた者がすーっと帳を開くと、現れた姿を見た翠玉が目を丸くした。


「あれ、あなたは確か……」

枕里シンリーでございます、翠風様っ」


 枕里とは、最初に翠玉を着飾った女官の一人で、よく翠玉の屋敷に顔を出す三人組の一人でもある。

 翠玉が人影に違和感を覚えたのも当然である。

 痩せ型で小柄な凛玲に比べ、枕里はふくよかで少し背も高いのだから。

 

「……そうだったわね、枕里……どうしてここに? 凛玲は?」

「凛玲からなにも聞いていないのですか?」


 寝台に座って上着を羽織りながら尋ねる翠玉に、枕里は不思議そうに返した。そして続ける。


「凛玲は翠風様付きの女官ではなくなったのですよ」


 枕里の言葉に耳を疑った翠玉は、動きを止めた後、枕里を振り返る。

 凛玲が、お付きの女官でなくなった。

 その事実に、翠玉はひどく狼狽えた。

 もしや敵の仕業では、凛玲は攫われたのではないかと。

 翠玉は慌てて寝台を下りると、枕里の肩を掴んだ。


「え……い、一体なぜ……!? 私に断りもなく、誰がそんなことをしたの!?」

「お、落ち着いてください翠風様、凛玲本人の意向ですよ!」


 青い顔をする翠玉に、枕里は驚いて答えた。

 枕里の返事にハッとした翠玉は、大きく開いた瞳で瞬きを繰り返す。


「……凛玲が……?」

「はい、昨夜のうちに凛玲から、他の皇妃様付きに配置転換してほしいと申し出があったようです。それで、翠風様は私……枕里に任せたいと言ってくれたようで、今朝方知らせがあったのには驚きましたが……凛玲は翠風様に話はしてあると言っていたので……」


 凛玲本人の意思だと聞いて、翠玉は少し落ち着きを取り戻した。

 とりあえず、拉致されたわけではなさそうだ。

 しかし、暁嵐と色事に耽っている間にそんなことが起きていたとは、翠玉はどこか申し訳ない気持ちになった。

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