二
その後、しばらくして翠玉が再び目を覚ます。
ずいぶん寝たような気がした翠玉は、ようやく上体を起こすと、ポリポリと頭を掻いた。
「お目覚めですか、翠風様」
「うん……おはよ――」
翠玉が声のする方を向くと、深緑の帳越しに人影が見えた。
しかし、翠玉はすぐに異変に気づく。
その人影が、見慣れた形ではなかったからだ。
外にいた者がすーっと帳を開くと、現れた姿を見た翠玉が目を丸くした。
「あれ、あなたは確か……」
「
枕里とは、最初に翠玉を着飾った女官の一人で、よく翠玉の屋敷に顔を出す三人組の一人でもある。
翠玉が人影に違和感を覚えたのも当然である。
痩せ型で小柄な凛玲に比べ、枕里はふくよかで少し背も高いのだから。
「……そうだったわね、枕里……どうしてここに? 凛玲は?」
「凛玲からなにも聞いていないのですか?」
寝台に座って上着を羽織りながら尋ねる翠玉に、枕里は不思議そうに返した。そして続ける。
「凛玲は翠風様付きの女官ではなくなったのですよ」
枕里の言葉に耳を疑った翠玉は、動きを止めた後、枕里を振り返る。
凛玲が、お付きの女官でなくなった。
その事実に、翠玉はひどく狼狽えた。
もしや敵の仕業では、凛玲は攫われたのではないかと。
翠玉は慌てて寝台を下りると、枕里の肩を掴んだ。
「え……い、一体なぜ……!? 私に断りもなく、誰がそんなことをしたの!?」
「お、落ち着いてください翠風様、凛玲本人の意向ですよ!」
青い顔をする翠玉に、枕里は驚いて答えた。
枕里の返事にハッとした翠玉は、大きく開いた瞳で瞬きを繰り返す。
「……凛玲が……?」
「はい、昨夜のうちに凛玲から、他の皇妃様付きに配置転換してほしいと申し出があったようです。それで、翠風様は私……枕里に任せたいと言ってくれたようで、今朝方知らせがあったのには驚きましたが……凛玲は翠風様に話はしてあると言っていたので……」
凛玲本人の意思だと聞いて、翠玉は少し落ち着きを取り戻した。
とりあえず、拉致されたわけではなさそうだ。
しかし、暁嵐と色事に耽っている間にそんなことが起きていたとは、翠玉はどこか申し訳ない気持ちになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます