旧友、同志、そして遠縁の親族である翠玉。

 彼女に近づきたくて、凛玲は必死に役割をこなした。

 最高の実行人である翠玉と組めるよう、優秀な請負人になる努力をした。

 そんな凛玲を後宮の請負人にと、推薦したのは翠玉だった。

 大きな勤めを授かった凛玲は、喜んで女官の仮面を被り、後宮に入った。

 金持ちが多く、欲望渦巻く宮廷は、暗殺者にとって客の宝庫。

 実際、これまで何度も位の高い皇妃たちから依頼があった。

 上手く仕事をこなせていることに、凛玲は気をよくしていた。暗殺家業でしか、生き甲斐を見出せない。それだけが暗殺家系で育った、彼女たちの存在意義だった。

 次第に凛玲は大きな仕事を望むようになった。さらに権力のある者に、誘いをかけようと考え始めたのだ。

 そうすればもっと、もっと、大好きな翠玉と釣り合えるようになると信じて。

 だから凛玲は『あのお方』に狙いを定めた。『あのお方』は後宮にいらっしゃることもあるので、こっそり紙切れを渡すこともそう難しくはなかった。

 だが、もっと早く気づくべきだったのだ。『あのお方』ほどの権力者なら、ある程度の悪事はもみ消せる。例えば臣下の殺害など、行ったところで表沙汰にならないようにできる。

 それなのに、わざわざ外の暗殺者に頼むなんて、自分と同等かその上の権力者が相手なのだと。

 だから『あのお方』の依頼を聞いた時、凛玲は仰天した。そして、すぐに自身のしくじりに気がついたのだ。

 首を突っ込んではいけなかった。まさか皇族同士の争いに巻き込まれるなんて――。

 しかし、受けてしまったからには、すでに時遅し。

 任務に失敗したため、凛玲は手付金を返そうとしているのだが、その機会を『あのお方』が作ってくれない。

 これまではあえて凛玲の近くを通ったりしてくれたため、その隙に手紙の受け渡しもできたのだが。

 片方がその気でなくなれば、やり取りは成立しない。

 あちらから凛玲に手紙などもなく、話し合う気が一切ないことがわかる。

 かといって放っておいてくれるほど『あのお方』は優しくないだろう。

 皇帝暗殺を企てるくらいなのだから、女官である自身の命など、塵も同然。ならば、機会を窺っているのだろうと、凛玲は考えていた。

 そして、この一件を終わらせるには、自分はどうするべきか……それがわからないほど、凛玲は愚かではなかった。

 ――翠玉……大丈夫、あたしが必ず――。

 凛玲は胸に手を当て、固く誓う。

 晴れ渡る空の下、凛玲に微笑む幼い翠玉が、姿を消した。

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