六
「それでは陛下、十九時の会食には間に合うようにお願いいたします」
「わかっておるわ、情緒のない奴じゃの」
ぶーたれる暁嵐を尻目に、司馬宇は扉を開くと、凛玲とともに部屋を後にした。
屋敷に二人きりになってからも、暁嵐は翠玉を抱きしめたまま動かずにいた。
時刻は十七時すぎ。そんなにのんびりとしている暇もないだろう。
「……早く済ませた方がいいんじゃ? あまり時間に余裕がないでしょ」
「まあ、そう急かすでない、なにも身体だけが目当てで来ておるわけではないゆえ」
暁嵐のどこか改まった雰囲気に、翠玉はいつもと違う様子を感じ取る。
翠玉は筋肉質な腕に後ろから抱きしめられながら、じっと暁嵐の次の言葉を待った。
「わしはお前が心配なんじゃ、突然現れたゆえ……また突然、どこかに消えてゆきそうで……だからこうして、勤めの隙を見ては会いに来てしまう」
暁嵐の意外な言葉に、翠玉は瞬きを繰り返した。
いつも余裕な暁嵐が、こんな弱気なことを言うとは思っていなかった。
翠玉は自身を抱く暁嵐の腕に、静かに手を重ねる。
「……まぁ、出会いが出会いだったからね」
「かなり特殊じゃったからの」
翠玉が首を捻って後ろを見ると、暁嵐もまた翠玉の目を見る。
視線が合った二人は、一緒にクスリと笑った。
そして暁嵐は、翠玉をあっという間に抱きかかえる。
「……一人でできることは限られておる、あまり大きな荷物を抱えすぎるでないぞ」
翠玉をお姫様抱っこした状態で移動する暁嵐。
翠玉は暁嵐の太い首に腕を絡めた。
暁嵐の言葉は、まるで、翠玉の今の状況を悟っているかのようだ。
それも間違いではないだろう。
暁嵐は翠玉が数多の秘密を抱えていることを知っていた。
暗殺者という生い立ち、それに加えて、標的であった自身を打ち損じ、その縄張りにいる。
後宮入りしてからも、心穏やかではないだろうと、暁嵐は思っていた。
だからこそ、自分にできることはなんでもしてやりたい、とも。
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