「……陛下は緊縛のご趣味がおありで?」

「いや、物理的な意味ではなくてな」


 沈黙を破った翠玉の台詞に、思わずずっこけそうになる凛玲と司馬宇。

 すかさず突っ込んだ暁嵐だが、すぐに翠玉の変化に気づくと、ニヤリといやらしい笑みを浮かべた。


「どうした、翠風、耳が赤いようじゃが?」


 どうしたかって、そんなの自分が一番聞きたい。

 翠玉はそんなことを思いながら、ニヤつく暁嵐の眼差しを浴びていた。


「うるさいです」

「はっはっ、わしにそんな口を利くのはお前くらいじゃ……」


 翠玉のキツい口調も素直でないところも、暁嵐にとってはただただ愛おしい。

 それだけ参っているということだと、暁嵐は改めて感じながら、翠玉の耳の先をかじった。

 ああ、もう、と翠玉は思う。

 こうなってしまっては、行くところまで行かなければ終わらない。


「……まだ明るいですが?」

「求め合う二人に昼も夜もなかろう」

「ちょっと司馬宇、なんとかしてよ」

「残念ながら次の公務まで時間がある、あきらめるんだな」

「友達なら助けなさいよ」


 身動きの取れない翠玉は目だけを動かし、司馬宇に助けを求めるが、あえなく失敗。

 外せない用事でもあれば、無理やり連れて帰ってもらえただろうが、その辺りはちゃんと考えて来ている暁嵐。

 しかし、皇帝の寵愛を免れようとする皇妃に、皇帝の行動に残念だとかあきらめろだとか言う宦官もなかなかのものだ。

 そんな希少な二人は、今ではすっかり気の置けない仲になった。

 

「なんじゃお前ら、最近ずいぶん親しげじゃの、ちょっと妬けるぞ」

「司馬宇はとてもよいですわ、私を性的な目で見ないところとか」

「そ、そんなことはわしには無理じゃぞ!?」


 焦る暁嵐に、カラカラと笑う翠玉。

 いつの間にか形勢が逆転している。

 これ以上は面倒なことになると踏んだ司馬宇は、さっさとこの部屋を出ようと考えた。

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