三
「……では、いずれ私からお誘いしてもよろしいでしょうか?」
翠玉は愛らしく首を傾け、上目遣いに暁嵐に問いかける。
こんなふうにされては、暁嵐に成す術はない。
相手の惚れた弱みを最大限利用する翠玉である。
「ああ、もちろんじゃ、翠風の誘いなら、なんとしてでも勤めを片付けて向かうぞ」
「そう無理はされなくても……陛下はお忙しいでしょうに」
「そんなことは翠風が気にせずともよい、忙しかろうと時間を作るのが愛というものじゃ」
あまりに真っ直ぐにぶつかってくる暁嵐に、今度は翠玉の方が成す術もなくなる。
こんなに美貌な翠玉なのだ、裏社会にいても、男から愛を告げられたことは数知れず。
それなのに、なぜ暁嵐のことになると動揺してしまうのか、翠玉自身が一番不思議だった。
「……そう、恥ずかしいことをあけすけに言わないでください」
「なんじゃ、照れておるのか、可愛いのお」
「からかわないでください」
ムキになる翠玉を、ニヤつきながら眺める暁嵐。
そんな二人を扉のそばで見守る凛玲と司馬宇。
しばらくプンスカ怒る翠玉を堪能していた暁嵐だったが、ふと本来の目的を思い出す。
「そうじゃ、これを翠風に持ってきたのじゃ、今日は城下町まで行ってきたからの、翠風に似合うと思ってな」
暁嵐はそう行って真紅の衣の懐に手を入れると、中にあるものを掴んで取り出した。
長方形の、薄い木彫りの箱だ。手のひらくらいの大きさのその蓋を、暁嵐はゆっくりと持ち上げた。
すると中から現れたのは、金縁に囲まれた翡翠の首飾りだった。
中央の大きな宝石の左右に、一回り小さな同じ宝石がついている。
金の縁にも粒のような宝石が散りばめられていて、実に煌びやかな逸品だ。
暁嵐はそれを手にすると、翠玉の白い首元に当てた。
「やはり完璧じゃな、さすがわしの見立てじゃ」
暁嵐は満足げに、そして嬉しそうに目を細めた。
翠玉の首元に当てられた首飾りが、窓から射し込む夕陽に輝いている。
暁嵐は装飾品の趣味もいい。翠玉にどんなものが似合うかもわかっている。
神秘に満ちた深い緑色の宝石。
翠玉の名前のスイは、翡翠の翠。まさに宝石のように美しく、大切な彼女へ、暁嵐からの心を込めた贈り物だった。
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