九
「申し訳ありません、雲嵐様があまりに気さくに話してくださるので、いらぬことを聞いてしまい」
「よいのです、翠風殿との会話は実に愉快だ、その見目に加え、話までお上手とは……今後もぜひ、私と会ってくださいませんか?」
そう言って雲嵐は翠玉に右手を差し出した。
雲嵐の目は、真っ直ぐに翠玉を映している。
最初は純粋に話がしたいだけかもしれない、とも思った翠玉だったが、やはりこれは違うなと確信する。
翠玉を見つめる眼差しは、友人を求めるそれとは別物だ。
纏わりつくような、熱を帯びているような……女を欲する男の目。
翠玉は戸惑うふりをして思案する。
正直、翠玉にとって、男と寝るなんて造作もない。
今までも、任務のために必要ならそうしてきた。
ただ、ここであっさり頷くと、軽い女になってしまう。となれば、もっと深い情報を得られなくなる危険がある。
今まで多くの女をたらし込んできたであろう色男には、少し拒むのが吉だと考えた。
「お会いしたいのは山々ですが……陛下は私に執着されており、ヤキモチ妬きなので少し困っておりますわ」
それを聞いた雲嵐は、思わず小さく吹き出した。
「はははっ……あの何事にも執着のない兄上が、ヤキモチ妬きとは……翠風殿は誠素晴らしい……実によいですよ」
雲嵐から、隠しきれない歪みの色が滲み出す。
兄上が執着する女がいかほどなのか、自分も味わってみたい、といった感じだ。
翠玉は虫唾が走りながらも、差し出された雲嵐の手に自分のそれを重ねた。
「あまり急接近すると怪しまれるかもしれません、また次回……ゆるりとお話ししましょう」
雲嵐のほっそりとした手を、包むように優しく撫でる翠玉。
すると気をよくした雲嵐が、もう片方の手の指先で、翠玉の手の甲をなぞった。
「同感です、他の女性はともかく、あなたのことは兄上もよく見ておられるようですからね」
その発言は、多くの女に手を出してきた証拠だった。
翠玉が手から視線を上げると、雲嵐の顔がすぐそばに迫っていた。
「いずれ翠風殿には、秘密の場所をお教えします」
「まぁ、それは楽しみですわ……」
弧を描く雲嵐の瞳に、翠玉も妖艶に笑んでみせた。
密やかな茶会が終わると、雲嵐と和が先に華殿を出る。
一緒に歩かないのは、周りに怪しまれないための配慮か。
少し時間を置いてから、翠玉と凛玲も華殿を出る。
そして歩き始めてしばらくすると、翠玉が突然立ち止まった。
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