「しかし、宮中にこんなに素敵な場所があっただなんて、知りませんでした」

「でしょうね、わざわざ皇妃に伝えることもありませんので、知らないまま過ごしている者も多いと思いますよ」

「あら、そうなのですか」

「ええ、ここは上段の皇妃以上でないと、取ることができませんので」

「取る……というのは?」


 翠玉の質問に、雲嵐は湯呑みを口元に運び、一口お茶を飲んでから答える。


「日にちと時間を指定して、華殿の門にいる宦官に伝えるのです。そうすれば先に押さえることができるので、その時間は、他の者は入ることができないのですよ」

「それは、先押さえする者の身分さえ高ければよいのですか? 連れて入るには身分が低い者でも?」

「可能ですよ、身分の高い者が了承した者なら問題ないとされていますから」

 

 ――これだ……!!

 雲嵐の言葉に、翠玉は心の中で拳を振り上げた。もちろん表面に変化はない。

 やはり凛玲はここに来たことがあるのだ、そしてそれは、依頼人である身分が高い者と一緒に。

 誰が凛玲と来ていたのか。それさえわかれば、依頼人を突き止められる。

 

「……しかし、なぜそんなことを?」

「私のことを慕ってくれる女官たちがいるので、いつか彼女たちも連れてきてあげられたらと思いまして」


 不思議そうに尋ねる雲嵐に、すかさず返す翠玉。

 怪しい動きを悟られないよう、自然な答えを用意する。翠玉は実に頭の回転が速い。

 それを聞いた雲嵐は、一瞬あきれたような、驚いたような顔をした。

 

「女官なんぞにまで気配りするとは、翠風殿は中身まで天女のようですね」


 この、女官『なんぞ』に、という雲嵐の台詞が、翠玉にはカチンときた。

 暗殺家系の生まれで人間らしい暮らしすらしてこなかった翠玉、身分でいえば底辺だろう。

 だから女官をバカにするようなその一言に、気分を害したのだ。

 ――ああ、私、こいつ嫌い。

 雲嵐はなんとなしに言ったのだろう。そういう無意識に出る言動にこそ、本心は表れるものだ。


「いいえ……しかし、先押さえできるからこそ、こんなにゆったりと過ごせるのですね」


 腹の中は真っ黒だが、見た目はまさに天女のように清らかな面持ちで話す翠玉。

 早くも翠玉に嫌われているとは知らない雲嵐は、快く話を続ける。

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