翠玉の屋敷内には、暁嵐から贈られた花や衣に装飾品がたくさんある。

 翠玉が贅沢になるんじゃないかと言っても、暁嵐は自分に当てられた予算を使っているから問題ないと言うし、もういらないと言っても聞かないのだ。

 まったく、困った人だと思いながら、翠玉は扉に向かう凛玲の背中を眺める。

 凛玲は扉を開いて、外に顔を覗かせたが、すぐに翠玉の元に戻ってきた。

 その手には、一通の手紙がある。


「……フー宦官からです、翠玉様に渡してくれと」

「和?」

「雲嵐様付きの宦官です。雲嵐様は、陛下……暁嵐様の一番歳が近い弟君です。母親は側室なので、正室のお子である暁嵐様とは、腹違いのご兄弟になられます」

「ふぅん、その弟の宦官が私に一体なんの用かしら?」


 翠玉は凛玲から手紙を受け取って、表裏をよく見てみる。

 真っ白でしっかりとした横型の封筒だ。そこにはなにも書かれていなかったので、封を開けて中を見てみる。

 取り出した便箋には、こう書かれていた。


『翠風殿、突然このような文を差し上げて申し訳ありません。翠風殿の素晴らしき舞いに心打たれ、文をしたためております。ぜひこのお気持ちを直に伝えたく、本日未の刻、華殿かでんにてお待ちしております。紅雲嵐』


 文章を読み終えた翠玉は、やや首を傾げた。


「……凛玲、華殿というのは、なに? 凛玲からの手紙にも書いていなかったけど」

「……華殿は、旺玖院と御殿のさらに向こうにある、季節の花を楽しむ広い庭園よ。暗殺は後宮で行う予定だったから、後宮周辺の地図しか伝えなかったけど」

「へぇ、そんな場所が……」


 翠玉は細い指先を唇に当てた。

 そして湯呑みを見ると、茶柱が立っている。

 ――風向きが来たかしら……?

 翠玉の豊かな唇の端がクッと持ち上がった。


「どうしたの、翠玉? なにが書いてあったの?」

「出かける支度をするわよ、凛玲」

「えっ?」

「陛下の弟君からのお誘いだもの」


 不敵な笑みを浮かべる翠玉に対し、凛玲は深刻な表情をしていた。

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