三
翠玉は懸命に依頼人を突き止めようとしていた。
まず大前提として、手付金が払える人間であること。手付けは暗殺代、全額の半分だが、それだけでも十分高額。韻家は権力者の暗殺を担う、高級暗殺一族だ。なので、手付金が払えないような貧乏人は論外である。
これで女官や宦官、下級皇妃なども除外できる。
その上で、暁嵐が死んで喜ぶ人物……。
世継ぎは長男と決まってはいるものの、健康面や能力、家柄を考慮されることもある。実際、三代目の皇帝は三男が継いでいる。
となれば、世継ぎ争いも熾烈になりそうだ。
金のある位の高い皇妃は、みんな暁嵐の子を生んでいる。皇妃同士で互いの子を蹴落としたりすることはあっても、暁嵐を殺したところで世継ぎ争いがなくなるわけではない。
暁嵐が亡くなれば、皇帝が代替わりして後宮が一新されるため、世継ぎの母以外は出家をするか、実家に帰されることになる。
暁嵐の子供はみんなまだ幼く、世継ぎも決まっていないため、今死なれてはかえって困るはずだ。
そしてそれは皇后の美雨にとっても言えること。正室だからといって、必ずしも自分の子が世継ぎになれるとは限らない。暁嵐を消すなら、自分の息子がきちんと皇帝に即位してからにするだろう。
となれば、暁嵐に成り代わって、皇帝の座につきたい者の仕業、と考えるのが自然だろう。
暁嵐は長子で、女は論外。
皇帝になる可能性を秘めているのは、男で年齢がいっている者。
順番で言えば、暁嵐の弟の
だがそうなれば、凛玲はどうやって取引きをしたのかが、疑問になる。
請負人とはいえ、女官として入り込んでいる以上、皇族の住む旺玖院には自由に行き来できない。
皇族専用の料理人である女官なら決まった時間に出入りできるが、凛玲はそれではないし。
もちろん向こうから呼ばれたり、なにか理由があれば別だろうが。
そう……これが翠玉の悩みの種であった。
怪しんだところで、なかなか旺玖院には行けない。かといって翠玉から、いきなり皇族の人間を呼び出すのは違和感があるし、呼び出したところで応じられないだろう。
つまり、暁嵐の弟たちと接触を図るには、あちら側から声をかけてもらう必要がある。
翠玉が暁嵐の生誕祭で演舞を披露したのは、このためでもあった。
美しく目立てば、誰かしらから声がかかるかもしれない。また舞いを見たいとか、茶会の誘いとか、なんでもいいから、情報を得られる機会が欲しかった。
これで無理ならば、深夜に忍び込んで様子を探るかとも考えたが、夜は暁嵐が来るため身動きが取れない。
こうなったらなにか理由をつけて、暁嵐の城に呼んでもらい、弟たちの様子を窺いに行くしかないか……。
翠玉は頭を捻って、必死に打開策を模索していた。
――コンコン。
不意に、扉を叩く音がして、翠玉と凛玲は同時に振り向いた。
「今度はなにかしら」
「また陛下からの贈り物でしょうか」
「ええ……もういいわよ、置ききれないし」
「ふふっ、そう言わずに」
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