二
「なに言ってるのよ、あたしが一番先に手を上げたんだからっ」
凛玲はプーと丸い頬を膨らませて、負けじと反論した。
最初は不服そうにしていた三人だが、次第に困り眉になって笑った。
「まぁ、でも凛玲なら、翠風様に相応しい女官かもね」
「そうねぇ、困った時助けてくれるし、優しいから」
「あたしも何度も世話焼いてもらったわ、仕事も早いし、優秀な女官ですよ」
三人の言葉に翠玉はふっと小さく笑った。
「そう……慕われているのね」
「いやぁ、それほどでも」
頭を掻きながら、へらへら笑う凛玲。
「みんなもまた、時間がある時、お茶でもしましょうね」
「わぁ、嬉しいです!」
「なんとしてでも時間を作らねば!」
「今日はこれで失礼いたしますー!」
「ええ、お勤めがんばって」
にこやかに手を振る翠玉に、ぽうっとする三人。彼女たちは凛玲に肘で小突かれると、後ろ髪引かれる様子で帰っていった。
ようやく玄関が静かになると、扉を閉めた凛玲が翠玉に歩み寄ってくる。
「大人気ねー、翠風」
「まぁね、あの子たちの話も、なかなかためになるから」
後宮内の序列やしきたり、ちょっとした噂話なんかも、女官たちはよく知っている。
実際、前に一度、短い時間茶会した時も、皇族の名前や地位、暁嵐との族柄などを教えてもらった。
仲良くしておいた方が、翠玉にとっても利があるのだ。
「そろそろ毒でも盛られる頃かと思ったけど、意外とないわね、凛玲が食い止めてるの?」
翠玉が温かい茶を口にして言った。
「もちろん毒味はしてるけど、まだ一度もないよ、やっぱり陛下の熱愛宣言が効いてるのかな」
「ふん、多少は役に立つじゃない」
「あはは」
翠玉は訓練の末、毒が効かない体質を得たため、盛られたところでなんともないのだが。
最初から盛られないに越したことはない。
「……凛玲は、その後変わったことはない?」
翠玉はすぐそばに立つ凛玲を見上げて聞いた。
すると凛玲は少し寂しげに笑った。
「……うん、大丈夫だよ」
どう見ても大丈夫そうではない。
だが、これ以上聞いたところで平行線を辿るだけだろう。凛玲は依頼人について、なにも言えないのだから。
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