「なに言ってるのよ、あたしが一番先に手を上げたんだからっ」


 凛玲はプーと丸い頬を膨らませて、負けじと反論した。

 最初は不服そうにしていた三人だが、次第に困り眉になって笑った。


「まぁ、でも凛玲なら、翠風様に相応しい女官かもね」

「そうねぇ、困った時助けてくれるし、優しいから」

「あたしも何度も世話焼いてもらったわ、仕事も早いし、優秀な女官ですよ」


 三人の言葉に翠玉はふっと小さく笑った。


「そう……慕われているのね」

「いやぁ、それほどでも」


 頭を掻きながら、へらへら笑う凛玲。

 

「みんなもまた、時間がある時、お茶でもしましょうね」

「わぁ、嬉しいです!」

「なんとしてでも時間を作らねば!」

「今日はこれで失礼いたしますー!」

「ええ、お勤めがんばって」


 にこやかに手を振る翠玉に、ぽうっとする三人。彼女たちは凛玲に肘で小突かれると、後ろ髪引かれる様子で帰っていった。

 ようやく玄関が静かになると、扉を閉めた凛玲が翠玉に歩み寄ってくる。


「大人気ねー、翠風」

「まぁね、あの子たちの話も、なかなかためになるから」


 後宮内の序列やしきたり、ちょっとした噂話なんかも、女官たちはよく知っている。

 実際、前に一度、短い時間茶会した時も、皇族の名前や地位、暁嵐との族柄などを教えてもらった。

 仲良くしておいた方が、翠玉にとっても利があるのだ。

 

「そろそろ毒でも盛られる頃かと思ったけど、意外とないわね、凛玲が食い止めてるの?」


 翠玉が温かい茶を口にして言った。


「もちろん毒味はしてるけど、まだ一度もないよ、やっぱり陛下の熱愛宣言が効いてるのかな」

「ふん、多少は役に立つじゃない」

「あはは」


 翠玉は訓練の末、毒が効かない体質を得たため、盛られたところでなんともないのだが。

 最初から盛られないに越したことはない。 


「……凛玲は、その後変わったことはない?」


 翠玉はすぐそばに立つ凛玲を見上げて聞いた。

 すると凛玲は少し寂しげに笑った。


「……うん、大丈夫だよ」


 どう見ても大丈夫そうではない。

 だが、これ以上聞いたところで平行線を辿るだけだろう。凛玲は依頼人について、なにも言えないのだから。

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