十
「……それって、ありなんですか?」
「ありじゃろ、わしが決めたんじゃからの」
「なんだか、皇帝陛下って……やりたい放題、ですわね」
あっけらかんとした暁嵐に、思わず変な敬語が出る翠玉。
だが、皇帝である暁嵐が、なにも考えていないはずがなかった。
「そうでもないぞ、これでも気を使っておるんじゃ。後宮内のことはすべて把握できぬゆえ、せめて皇妃たちに寂しい思いはさせぬようにと、平等に回るようにしておる……とはいえ千人近くじゃからの、拾いきれぬ皇妃がおるのも事実じゃ」
暁嵐は腕を組み、眉尻を下げて話した。
世間では無類の女好きだと言われている暁嵐だが、そこには彼の、女性への気配りがあったのだ。
しかし、一人の男に対して、千人の女がいるとは。正気の沙汰ではないと翠玉は思った。
一年は三百六十五日しかない。毎日別の皇妃を訪れたとして、三年に一度ほどの頻度しか夜伽に恵まれない計算になる。
そう考えた翠玉は、ホッとしたような残念なような、複雑な気持ちを抱えた。
「そうですか……なら次に私のところへ来られるのは、ずいぶん先になりそうですね」
「いや、今宵も参るぞ」
翠玉の言葉に被せ気味に答える暁嵐。
これには翠玉も、申し立てせずにはいられない。
「……たった今、平等に、とおっしゃいましたよね?」
「それは今までの話じゃ、お前は別じゃろ、今日も明日も明後日もその次も、よほど切羽詰まった勤めがあるか、体調でも悪くない限りは毎日来るぞ」
自信満々に言いきる暁嵐に、翠玉は頭痛がしてきた。
先ほどの複雑な気持ちを返してほしい。
「いや、毎日はちょっと、たまにでいいです」
「なんじゃ、釣れんのお」
と、一瞬不服そうにした暁嵐だったが、すぐにあることに気づくと、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。
「……たまには来てもよいのだな?」
その台詞に、翠玉は自分が言ったことを思い返した。
たまにでいいです。なんて……無意識のうちに、暁嵐を招くような発言をしてしまった。
これではまるで暁嵐に、たまには会いに来てくださいと言っているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます