「……それって、ありなんですか?」

「ありじゃろ、わしが決めたんじゃからの」

「なんだか、皇帝陛下って……やりたい放題、ですわね」


 あっけらかんとした暁嵐に、思わず変な敬語が出る翠玉。

 だが、皇帝である暁嵐が、なにも考えていないはずがなかった。


「そうでもないぞ、これでも気を使っておるんじゃ。後宮内のことはすべて把握できぬゆえ、せめて皇妃たちに寂しい思いはさせぬようにと、平等に回るようにしておる……とはいえ千人近くじゃからの、拾いきれぬ皇妃がおるのも事実じゃ」


 暁嵐は腕を組み、眉尻を下げて話した。

 世間では無類の女好きだと言われている暁嵐だが、そこには彼の、女性への気配りがあったのだ。

 しかし、一人の男に対して、千人の女がいるとは。正気の沙汰ではないと翠玉は思った。

 一年は三百六十五日しかない。毎日別の皇妃を訪れたとして、三年に一度ほどの頻度しか夜伽に恵まれない計算になる。

 そう考えた翠玉は、ホッとしたような残念なような、複雑な気持ちを抱えた。


「そうですか……なら次に私のところへ来られるのは、ずいぶん先になりそうですね」

「いや、今宵も参るぞ」


 翠玉の言葉に被せ気味に答える暁嵐。

 これには翠玉も、申し立てせずにはいられない。


「……たった今、平等に、とおっしゃいましたよね?」

「それは今までの話じゃ、お前は別じゃろ、今日も明日も明後日もその次も、よほど切羽詰まった勤めがあるか、体調でも悪くない限りは毎日来るぞ」


 自信満々に言いきる暁嵐に、翠玉は頭痛がしてきた。

 先ほどの複雑な気持ちを返してほしい。


「いや、毎日はちょっと、たまにでいいです」

「なんじゃ、釣れんのお」


 と、一瞬不服そうにした暁嵐だったが、すぐにあることに気づくと、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。


「……たまには来てもよいのだな?」


 その台詞に、翠玉は自分が言ったことを思い返した。

 たまにでいいです。なんて……無意識のうちに、暁嵐を招くような発言をしてしまった。

 これではまるで暁嵐に、たまには会いに来てくださいと言っているようだ。

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