九
「そうか、ならばわしが指南してやろう」
「けっこうです、一人で乗れますから」
「まあ、そう言うでない」
暁嵐は翠玉の手を引くと、先に紅魁に乗せ、自身はその後に続いた。
結果、暁嵐が前に乗った翠玉を、包むような形になった。
「よう我慢しておるな、あれほど身軽なのじゃ、身体が勝手に動きそうなものを」
「できる女は切り替えも上手いものよ」
他の誰にも聞こえない距離になると、翠玉は小さく、得意げに言ってみせた。
背後をチラリと見る、翠玉の流し目が艶かしく、暁嵐は高まった。
「ははっ、違いない」
「ちょっと陛下、勝手に行かんでください! 私も一緒に――」
「行け、紅魁!」
「ヒヒーン!」
司馬宇が止めるのを聞かず、暁嵐は翠玉とともに紅魁で出発した。
開かれた門を通過し、後宮の石畳みを駆け抜ける。
いくら宮中が広いからといって、馬で走っている者は誰もいない。
当然、こんな特別なことが許されるのは、暁嵐くらいだろう。
女官や宦官たちの視線を攫いながら、暁嵐は後宮の奥の方へと向かう。
長屋のような女官たちの住処と、下級皇妃の小さな家屋を越え、やがて静かな敷地に出る。
これまでの場所とは雰囲気が違う。
人通りが少ない道沿いに、独立した屋敷がいくつも並んでいた。
「着いたぞ、ここじゃ」
暁嵐は馬から降りると、翠玉の手を取り、地上に導いた。
翠玉が降り立ったのは、深緑の屋根をした、平らな建物の前。
女官たちの雑魚部屋とは、比べものにならない立派な屋敷だ。
「なんか……大きくない、ですか……?」
「そうじゃな、五段の皇妃が使っておった屋敷ゆえ、それなりの広さはある」
聞き慣れない言葉に、翠玉は隣に立つ暁嵐を見上げた。
「五段とは、なんなのです?」
「皇妃に与えられておる位のことじゃ。上が一段から五段、その下が一級から十級まである。上になればなるほど、地位が高く、数は少ない」
「なら……五段というのは、級を飛ばしているのでは?」
「飲み込みが早いの、その通りじゃ」
あっさり認める暁嵐に、ええ……と言いたくなる翠玉。
一級から十級までの段階をすっ飛ばして、いきなり五段に割り込むなど、飛び級もいいところである。
後宮入りしても、一級のまま終わる女もいるというのに、翠玉は間違いなく特別待遇だった。
後宮事情に詳しくない翠玉でも、そこまで優遇されてよいものかと躊躇する。
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