八
「翠風!」
翠玉の姿を認めた暁嵐は、馬の手綱を引き、足を止めた。
突然登場した暁嵐に、翠玉は怪訝な顔をし、司馬宇は仏頂面のままだった。
「そろそろ皇后のところに来ている頃じゃと思ってな」
「……はあ」
「この馬はわしの愛馬じゃ、名は
「さようでございますか……」
明らかに乗り気でない翠玉に、気にせず話しかける暁嵐。
彼はすっと馬を降りると、一直線に翠玉に近づく。そして当然のように、翠玉をギュッと抱きしめた。
「会いたかったぞ、わしの翠風」
素早く自然すぎる動きに、一瞬抵抗を忘れる翠玉。
反応できたところで、拒む選択肢はないが。
なんせここは宮中なのだ、周りには後宮ほどではないが、通りすがりの宦官もいる。
そんな公の場で、皇帝にタメ口も利けなければ、異議を唱えることもできない。
だから翠玉は、足を踏んでやりたい気持ちをグッと堪えた。
「嫌ですわ、陛下ったら、今朝までご一緒だったではありませんか」
「馴れ馴れしい口調もよいが、丁寧な言葉遣いもまたよいの、その装いも大層似合っておる、眩しくて眩暈がするほどじゃ」
嫌味を込めて言ったつもりの翠玉だったが、暁嵐はまったく気にしていない。
それどころか翠玉を舐めるように褒める始末。こうなると翠玉は、自分が苛立っているのがバカバカしくなってくる。
「陛下、いかがされたのですか、そろそろ
通りすがりの宦官が注目する中、司馬宇は変わらぬ表情で暁嵐に尋ねる。
だが、暁嵐は焦る素振りもない。
「まだ余裕があるゆえ問題ない、翠風の屋敷が整ったので迎えに来たのじゃ」
「……屋敷?」
翠玉は『部屋』ではなく『屋敷』と言われたことが引っかかった。まるでずいぶん立派な住処のような表現ではないかと。実際、そうなのだが。
「そうじゃ、ほれ乗れ、馬は初めてか?」
「そうですね、馬に乗る必要性を感じたことがないので」
翠玉の答えに、暁嵐は「あー、確かにのお」と言って激しく納得した。
さすがに最高時速は馬の方が速いだろうが、馬は飛んだり跳ねたり、高い塀を越えたりできない。移動に便利な身軽さでいえば、翠玉単身の方が上なのだ。
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