五
宦官よりも背は低いが、一般的に見れば長身だろう。光沢のある赤い着物には、
衣の上からだと、ほっそりした体格に見える。しかし、その布の下は、確実に筋肉質であろうと翠玉は思った。
この翠玉様を一撃で失神させるくらいなのだから――翠玉は胸の内でそう言いながら、背中に受けた手刀を思い出し、ギロリと標的を睨んだ。
だが、標的はあくまで冷静で、ふっと余裕の笑みを浮かべるだけだった。
「
「そうはまいりません、暗殺者と二人きりなど」
「下がれ……と申しておる」
声を一段落として一言。たったそれだけで、宦官の司馬宇は黙り込む。
そして不満げな顔をしながらも、頭を下げて帳の外に出る。閉められた帳の向こうに遠のく気配。
キィ、パタンと扉が開閉された音がすると、いよいよこの部屋には、暗殺者と標的の二人だけになった。
暗殺者は
暁嵐は司馬宇が出ていくなり、寝台の脇に座り翠玉に近づいた。
そしてあっという間に手を伸ばしたのだ。
「どれ」
手枷が邪魔して身動きが取れない翠玉は、あっさり暁嵐に顔の布を取られてしまう。
布で隠されていた目元から下が明らかになると、暁嵐は満足げに歯を見せて笑った。
「やはり、至高の美女であったか、わしの目に狂いはないの」
灯篭だけが頼りの薄闇の中でも、暁嵐は翠玉の見目麗しさに気づいていた。
目元だけでも十分にわかるほど、隠せない美しさが滲み出ていたのだ。
翠玉はこの台詞に驚いた、それと同時に悔しさが湧いてくる。
「……あの状況で、容姿を気にする余裕があったなんて」
「まあ、このような立場ゆえ、いつ何者が襲ってこようとも、返り討ちにする鍛錬はしておる」
さらりと答える暁嵐に、内心苛立つ翠玉。だが、決してそれを顔には出さない。
一つの突破口を見出したからだ。
「……本当に、驚いたわ、まさか……皇帝陛下がこんなに強いお方だったなんて」
翠玉は目を伏せ、物憂げな表情を作る。
そして頬を染め、両膝をもじもじと擦り合わせた。
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