四
気を失った翠玉は、しばしの眠りについた。
やがて長いまつ毛がピクリと動き、ゆっくりと瞼が持ち上がる。
暖色の光に助けられ、徐々に広がる視界に景色が映し出された。
そこは荒地でもなければ、牢屋でもなかった。
――ここは……?
翠玉が眉を潜めながら、身体を起こそうとした時だった。
「目が覚めたか」
突然、背後から声がかかり、翠玉は急いでそちらを振り返った。と同時に、手首がずいぶん重いことに気づく。
すぐに視線を落としてみると、両方の手首に鉄の輪っかがはめられているのがわかる。その二つについた鎖は左右に分かれ、寝台の両脇の縁に繋がれていた。
白い敷き布の上に座った翠玉は、目線まで持ち上げた両手を確認すると、ハッと短く息をついた。
「独房行きでいいものを、陛下に感謝するんだな」
翠玉が改めて見上げたのは、寝台の傍らに立つ大きな男。
先ほど翠玉と戦った宦官は、三白眼を歪めながら吐き捨てるように言った。
翠玉はムッとしながら両手を下ろすと、周りに視線を巡らせる。
すると自分がいる場所が、帳に囲まれた寝台の上だとわかる。
キラキラの金箔を散りばめられた、いかにも高そうな真紅の垂れ幕。
木造の寝台は大人二人が余裕で寝られるほどの大きさがあり、焦茶色の縁や手すりはしっかりとした木でできている。おまけに敷き布や布団は真っ白で、手入れが行き届いていることがわかった。
翠玉は今まで敵に捕まるなど、ヘマをしたことは一度もなかった。
万が一、そんなことがあれば、即刻殺されるか、目覚めても拷問されるのが当然だと考えていた。
実際、下手をこいた仲間は、みんなそうやって葬られてきたことを知っていた。
そんな翠玉にとって、この場面は予想外だった。
――ずいぶんと、待遇がいいこと。
だが、翠玉はこの状況を素直に受け入れはしない。
上手い話には裏がある。これからなにが始まるのか、一瞬たりとも気を緩めてはならないと感じた。
「気がついたようじゃな」
もう一つ、訪れた気配が帳に影を落とす。
すると先に入っていた宦官が、すっと端に身を寄せ、帳を開いた。
そこに立っていたのは、翠玉が仕留め損ねた標的だった。
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